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逆引き古寛永事典(私流)
 
はじめに・・・
逆引き新寛永事典をリリースして久しく時が経ちましたが、古寛永は難しいという声を相変わらず聞きます。かく言う私も未だ古寛永は苦手でして、一見して判別できるほどの域には達していないと思います。
古寛永基礎分類譜を作ったのは私なりの分類方法を確立するための実験的なものでした。ここでは私なりの基礎分類について改めて考察することで、皆様の分類の一助になることを狙いました。と、まぁえらそうなことを書いてしまいましたが早く言えば自分流の公開です。
私流ですので分かりづらかったり、役に立たないこともたくさんあると思いますがお許し下さい。
  
古寛永の鋳造地について
古寛永銭の分類に際して、まず最初に聞かされるのが15鋳造地名だと思います。この15鋳造地名は古寛永の大分類名に使用されてはいるのですが、実はすべてが仮分類名であって根拠はないようなのです。また、一般に言われているように15ヶ所の鋳造地だけでもなかったようです。可能性のある鋳造地について以下に記述します。

1-1.常陸水戸田町銭座 寛永3年(1626年)  
水戸の商人、佐藤新助が藩と幕府の許可を受けて鋳銭事業をはじめました。名を寛永通寶とし背に三の文字を入れたとされています。これは公鋳ではありませんが、古寛永の始まりであることには間違いないようです。

1-2.常陸水戸煙草町銭座 寛永13年(1636年)
佐藤新助が病死し、田町銭座が休業を余儀なくされた10年後、息子の庄兵衛と三久保屋甚右衛門の共同経営で銭座が再開されています。(このとき鋳造されたのは背十三とも言われていますが定かではありません。)これを契機に全国に公的銭座が作られてゆきます。幕府の思惑で寛永13年6月に私的銭座の運営の禁止が通達されたため、佐藤庄兵衛と三久保屋甚右衛門は事業停止を余儀なくされたようですが、すぐに公的銭座の頭として登用されたようです。

以上を水戸銭として二水永銭が充てられています。これについては異論のないところでしょう。
寛永13年(1636年)
 2.江戸浅草橋場銭座 
※御蔵銭の可能性が高い。
 3.江戸芝網縄手銭座
 4.近江坂本銭座 ※背星文が該当する可能性。

寛永14年(1637年)
 
5.常陸水戸向町片町銭座 ※水戸長永類が確定か?
 6.備前二日市村銭座 ※称井之宮縮寛類が確定。
 7.豊後竹田古町銭座 
 8.仙台三迫銭座 
※跛寶・大永類が推定該当。
 
9.信濃松本銭座 ※斜寶類が確定。
10.越後高田銭座 
11.長門赤村銭座 
※異永類が確定。
12.三河吉田新銭座町銭座  
13.山城(京都)建仁寺銭座 ※粟田口銭座もある?
14.大阪銭座 ※15鋳地には入っていないが・・・。

寛永16年(1639年)
15.駿河井之宮村銭座     

明暦2年(1656年)
16.江戸浅草鳥越銭座 
※称沓谷銭類が該当か?
17.駿河沓谷銭座   ※称鳥越銭類が該当か?

万治2年(1659年)
18.肥前(長崎?)銭座 
※称建仁寺銭が該当か?
よく古銭商などで古寛永15鋳造地などという名前をつけられて売られています。私も古寛永収集はここからはじまりました。一般的には水戸(1-1、1-2、5番をひとまとめにして、大阪、長崎をはずして15鋳造地とするようです。ただし、実際の銭種割り当てと鋳造地推定に根拠のないものが多いのが実情です。
 
15鋳造地分類による代表的書体銭譜
15鋳造地分類にしたがって代表銭を集めてみました。分類に困ったら、この銭譜のうちの似ている拓本をクリックして下さい。分類のためのヒントに出会えるかもしれません。黄色文字名称は古寛永泉志の名称で、もっともポピュラーな名称です。配列は書体の系統を比べるため敢えて旧譜には従わず年代順にもしていません。
長門銭(長門鋳造で確定)

手本銭や遺跡発掘による裏づけ調査により鋳造地が確定されています。異永、奇永、勁文、麗書、裕字などのオリジナル書体の他に各地の銭を鋳写したもの(俯永様、星文様、広永様、正字様、太細様)があります。
白銅質で独特の背の形成が特徴群です。
竹田銭(松本鋳造で確定)
穴銭入門(収集) 松本銭
浩泉丸銭譜    信濃松本銭

書体変化はあまりありません。比較的大型のものが散見されます。
永字扁平で仰貝寶になるのが特徴です。
御蔵銭(江戸浅草橋場銭座の可能性高い)

とにかく変化が多く、百手という俗称もあります。
文字が素朴で、字画ごとに太細があります。
彫が深く地から文字が垂直に立ち上がる感じのものも多いと思います。例外もありますが背郭は総じてとても細くなります。慣れてしまえば一目瞭然といったところ。古さを感じる一群です。
建仁寺銭(長崎鋳造の可能性高い)
穴銭入門(収集) 長崎銭
浩泉丸銭譜    長崎銭

独特のデザインされた文字が特徴です。大型のものもときおり見られます。存在は多くほとんどが雑銭です。私も長崎銭であることに賛成します。
寛目、寶貝が大きく寶足の付け根が極端に右側に寄ります。通字、永字の形状も独特です。
松本銭
穴銭入門(収集) 不知銭
浩泉丸銭譜    太細銭

永柱のみが太い太細が基本ですがやや分かりづらいかもしれません。端正な文字で寛目がやや大きいものが多いようです。

文字はすっきり小さくまとまって、永字は平たく長通、長寶になります。
岡山銭
浩泉丸銭譜    岡山俯永銭・岡山長尾永銭・岡山長嘯子銭
浩泉丸銭譜    岡山良恕銭・岡山婉文銭・岡山進永銭
浩泉丸銭譜    岡山小字銭・岡山縮字銭・岡山短尾寛銭

基本銭は俯永ですがやや小文字の類のものを中心に集めた感じで特徴がバラバラです。松本銭との区別がとても難しい一群です。文字の太細はあまり感じられません。

永頭やフ画上辺の俯す俯永を基本として文字が比較的端正で小さくまとまっています。
  
仙台銭(大永・跛寶は仙台鋳造の可能性高い)
浩泉丸銭譜    仙台銭・仙台濶字銭・仙台正字手

水戸銭や岡山銭と同じで雑多な集まりで統一性がありません。刔輪手法を使用する銭群が集められた・・・といった感じです。文字はやや直線的な筆法のものと、銭面に癖のある勢いのない文字が目いっぱい書かれたものがあります。
基本銭の大永や跛寶、濶字は
直線的な文字で寶足がそろわず仰寶になりアンバランスで覚えやすい書体。
正永、正字手、寛字系は水戸銭に似た書体が端正な一群ですが制作が少し劣ります。
水戸銭
浩泉丸銭譜    水戸背星文銭
浩泉丸銭譜    水戸星文手類
浩泉丸銭譜    水戸正字銭
浩泉丸銭譜    水戸広永銭
浩泉丸銭譜    水戸宏足寛手類
浩泉丸銭譜    水戸力永銭
浩泉丸銭譜    水戸放永銭

雑多な銭の集合体で例外も多く、いまひとつ統一性がないグループです。この類の分類は文字の位置(寄郭、離輪)と寛後足の形状に着目するのがポイントです。御蔵銭ほどではありませんが文字に太細があり、筆書き風の書体です。
 
※青い破線から上と下では同じ銭座の書体とは思えない差異があります。私は以下を大字濶永系としています。

水戸銭(水戸鋳造で確定か?)
浩泉丸銭譜    常陸水戸銭

長永は発掘調査の結果、鋳造地確定したもの。
永字の洽水点が高く、永柱が長く見えます。類似書体が多いので分類にはある程度の熟練が必要ですがこの書体が古寛永のあるタイプの基準書体になります。

水戸銭
浩泉丸銭譜    常陸水戸銭など

水戸銭と呼ばれるもののうち長永類似書体です。
高田銭
浩泉丸銭譜    高田銭・不草点類

永字のノ画が高い位置から力強く打ち込まれています。辵の揮部が俯し、通頭が辵側にせり出すため通字が前のめり
に見えます。
吉田銭

広永は寶字に癖があって覚えやすい書体。狭永類は特徴少なく分かりづらいのですが永フ画横引きが短く、洽水気味です。狭永小字は濶縁小字になります。
井之宮銭(岡山鋳造で確定?)
穴銭入門(収集) 岡山銭
浩泉丸銭譜    備前岡山銭


縮寛という名称が一般に知られています。通、永、寶字が大きく、寛字が離郭気味でこじんまりしています。さらに、背郭が反郭気味で永尾位置が高く波行して長く引かれます。
坂本銭
浩泉丸銭譜    坂本銭・不草点類

永字のフ画先端が跳ね、辵頭が反り返る独特の書体
は分かりやすい。正永は辵頭の癖が残っていますが例外もあります。高頭通は辵が萎縮気味で辵点が辵頭から離れます。この通字の形状を覚えるのが分類の早道なのですが、慣れるのにはかなり時間がかかると思います。
芝銭

基本銭は通点と永点が草点
になりますが例外多数です。文字は気持ちよく大きく銭面いっぱいに伸び伸びと納まります。俯寶気味です。
鳥越銭(沓谷鋳造の可能性高い)
穴銭入門(収集) 沓谷銭
浩泉丸銭譜    明暦駿河銭


通頭が極端に薄い。これだけで十分分類できます。
沓谷銭(鳥越鋳造の可能性高い)
穴銭入門(収集) 鳥越銭
浩泉丸銭譜    明暦浅草銭

芝銭に似て、
通点、永点が草点気味。通用長く、寛目と寶目が下すぼみになる傾向。寶字は正しく傾きはありません。癖はあるものの非常にデザインされてまとまった書体です。
不知銭 降寶 長尾永
浩泉丸銭譜    吉田銭・不草点類

古寛永はほとんどが不知銭なのですが、この2品だけがなぜか独立した不知銭として取り扱われます。降寶は吉田銭と鳥越銭の中間体。
通、寶字とも妙に大きい。長尾永は坂本高頭通の系統だと思います。寶足と永尾に特徴があります。
 
類似書体の比較分類
古寛永はとにかく類似書体が多くあります。同じ系統の書体を並べてみるとわずかな違いが見えてくるかもしれません。
→ そっくりさん集合! 1 古寛永星文手系の書体比較です。(文字離隔)
→ そっくりさん集合! 2 古寛永水戸長永系の書体比較です。(大字濶永)
→ そっくりさん集合! 3  古寛永芝銭と坂本銭の類似比較です。
   
→ そっくりさん集合! 4  古寛永長尾永系の類似比較です。
   
私流の分類のアドバイス
大雑把な鋳造地のイメージが把握できたところで分類にとりかかってみましょうか。ただし分類には銭譜の存在が不可欠だと思います。できれば古寛永泉志は入手しておきたいところです。なお、以下の文章は雑銭の中から古寛永だけを抜き出したもの・・・ということを前提に記述します。古寛永と新寛永の区別がつかない方や、書体変化について全く分からない方、専門用語を知らない方のための記述にはなっておりませんがご了解下さい。
【私流その1 大きいものを探す】
基準は25㎜です。古寛永は大きいというイメージがなぜか私にはあるのですが、粒ぞろいの割りに、外径が25㎜を超えるのは稀なのですよね。と、なると掘り出し物のチャンスです。
新寛永の文銭はほとんど25㎜を超えているので、これを基準にするとよいでしょう。信濃松本銭(旧竹田銭)のように比較的大型のものが多いのもあるのですが、それにしても普通の古寛永より高い評価となります。
26㎜を超えていたら大珍品です。
なお、この作業は銭の種類を特定するために行うのではなく、雑銭中の珍品を見落とさないためのもの。母銭や大様銭が混じっているかもしれません。

← 高田銭の笹手永の大型銭 25.3㎜ 文銭に混じると目立たないのですが貴重な品です。
※比較的大型のものが多い銭座
竹田銭 長崎銭 水戸銭の一部(湾柱永・無星文) 高田銭(笹手永)など
 
【私流その2 雑銭を除外する】 → 古寛永鋳地別鋳造割合(コインの散歩道より)
古寛永の山があったら長崎銭、沓谷銭、鳥越銭がおおよそ半分を占めているそうです。中には長足寛や濶縁のように少ないものもありますが、それらは稀でほとんどは低価値のものばかり。一部の見落とし(濶縁)に気をつけて残りは雑銭箱に入れちゃいます。ただし、判らなかったり、気になったら除外しないのが古寛永分類の基本。大きくてきれいなものも残しておきましょう。

長崎銭 特徴的な文字なので、すぐ覚えられます。長足寛は少し少ない。
鳥越銭(明暦駿河銭) 通頭が棒状に薄く低くなるのでこれも簡単!ただし濶縁小字になるものは貴重です。
沓谷銭(明暦浅草銭) ちょっと難しいけど整った書体なので慣れるとすぐ分かります。これも濶縁小字は貴重。
沓谷銭は芝銭のあるものにそっくりです。この手の書体の多くが俯寶気味になりますが沓谷銭は寶字が正しく立ちます。この傾向は寶字の部品にも現れていて、尓の左右の点の位置も沓谷銭は正しく納まります。
※沓谷銭の区別は初心者には難しいかもしれません。判らなければとりあえず除外せずそのまま進行して行って下さい。
  
【私流その3 背を見る】
この作業はその2の作業と平行して行って下さい。私は古寛永の場合はまず背を見ます。この癖は私の白銅銭好きに根源があります。そう、長門銭を探すためです。長門銭は白銅銭が多いとはいえ、純白のものはほとんどなく、変色して黒っぽくなっているものが多く、撰り出しをする場合は背郭を見て探すのが早いのです。もちろん例外もたくさんありますのでこの作業はあくまでも選別の補助作業とお考え下さい。もし、数字が入っているものを見つけたら大騒ぎです。(番銭という大珍品)また、妙に背濶縁なものにも一応気を配っておいて下さい。
背に特徴のある古寛永はいくつかあります。以下に代表的なものを挙げます。

長門銭   背郭が丸く歪むものが多く、立ち上がりの形成が独特です。銅色は黄白色~青白色のものが多いと思います。
井之宮銭  背郭が反郭気味に反り返るものが多い。背反郭なら面を見て確認します。
高田銭   肥永の類は背郭がこじんまりと細いものがほとんどです。背地が滑らかになっているものも多い。
御蔵銭   一部例外はありますが背郭が小さく穿にへばりつくように細くなります。
水戸銭   背の上部に星があるものがあります。

背大濶縁のもの 松本銭や仙台銭に珍品があります。
特徴的な背を持つ古寛永
長門銭 井之宮銭 御蔵銭 高田銭
 
【私流その4 分かりやすいものを選ぶ】
御蔵銭や坂本銭の跋永など見た目で分かりやすいものを除外してゆきます。難しい問題は分かるところから解いてゆく・・・これって試験を受けるときの基本でしょう?もちろん、分かりやすさはひとそれぞれです。自分の習熟度に合わせて選別してください。
二水永になるもの。
→ 私鋳銭
→ 初期不知銭
→ 二水永銭
素朴な文字。文字の太さが一定せず勢いがない。
→ 初期不知銭
→ 御蔵銭
→ 高田銭(肥永類)
※背郭の特長にも注意しましょう。
永字が特徴的。
→ 長門銭(食い違う)
→ 坂本銭(跳ねる)
→ 高田銭(ノの打ち込み)
寶字が特徴的。
→ 吉田銭(魚尾寶・斜王寶)

寶字が仰ぐ(右に傾く。)
→ 竹田銭(信濃松本銭)
→ 仙台銭(跛寶)
通字が特徴的。(縮通で下すぼみ。)
→ 高田銭(縮通)
→ 岡山銭(縮字)


※以下は削字による変化
→ 水戸銭(力永縮通)
→ 長門銭(俯永縮通)
癖のある書体。
※これはその人の感性でしょうね。
→ 松本銭(太細銭歪永)
→ 不知銭降寶
【私流その5 大字濶永系の書体とそれ以外を分離】

これは私独特の感覚なのかもしれませんが、古寛永の書体の潮流のひとつに私が大字濶永系とする一群があります。上の15鋳造地分類による掲示では青い破線で区切った下側の書体には、どこかに共通点があるように思えます。寛永の文字は郭の横幅一杯を使い、通寶の文字は郭の縦幅を超えるほど大きく長い、寶珎が大きく頭でっかち・・・そんな感じです。この書体を感覚的に選出しておくことで後の分類がしやすくなるのです。
この銭種を選んだあとで・・・
①ノ画の角度がきつく永字が笹手になる。通字が前のめりになる。 → 高田銭
②永フ画横引きが短い。 → 吉田銭狭永
③永字が洽水で濶縁小字になる。 → 吉田狭永小字
④永尾のはじまり位置が高く、波行する。寛字が小さい。 
 井之宮銭類 
⑤通点、永点が草点になる。 → 芝銭
⑥俯寶気味になる。 → 芝銭
⑦寶前足が長く伸びる。 → 水戸銭湾柱永 坂本銭高頭通 芝銭細字類 不知銭長尾永
⑧永柱が長い。 水戸銭長永類 吉田銭狭永類

おおよその特徴を見つけて分類してゆきます。

これらの品々と水戸星文手系の品を私は本能的に見分けています。どこが違うかというとうまく文章に記述ができません。強いて言えば寶足と寶珎の形状と文字配置(水戸系は離郭印象)、永字の払いなのかもしれません。
 
分離したグループを細分類
→ そっくりさん集合! 2 古寛永水戸長永系の書体比較です。(大字濶永)
 
大字濶永系とボーダーライン上の例外銭たち・・・
水戸銭 仙台銭 仙台銭 水戸銭 岡山銭 水戸銭
長永 濶字大字 寛字 背星 長嘯子 勇文
仙台の濶字大字は大字濶永と私が判断する特徴をほぼ備えています。寛字は文字こそ大きいのですが永字が端正で通頭が小さく、私のイメージの網に引っかかりません。背星は文字はやや大きめなもののいまひとつ・・・。長嘯子は永字は気持ち良く大きいのですが、通用が細く全体的に華奢なイメージです。水戸銭の勇文や力永も近似はしていますが、接郭する書風がいまいちです。
 
高田銭笹手永手細字削尾永
基本銭は大字濶永系なのですが削字によって似ても似つかない風貌です。こんなものもあるのが古寛永・・・だから難しい。どちらかといえば珍銭です。
高田銭笹手永手長寶
笹手永の名称ですが大字濶永系ではなく、表の拓本だけで見たら水戸背星文の無背にいれてしまいそうです。制作が高田銭で背が小郭になりますが書体は異質です。絶対的な珍品ですので、こんなものもあるとだけ覚えておくほうが賢明です。これも背の様子を観察すると水戸銭ではないことが判ります。
次の作業工程はほぼ同時に行うものです。これは水戸銭と仙台銭系を選び出すためのスキルです。
【私流その6 寶字の王と尓のバランスを確認する。】
バランスが崩れ歪んでいるものは仙台銭正字手と水戸銭系、あとは岡山銭の短尾寛に多いと思います。特に水戸系は寶王が伏してウ冠からはみ出したり、尓の縦柱が短く前点が小さく上がり後点が下がったりとけっこう乱雑。ただし、これは私だけの感覚かもしれません。
その他には岡山銭の良如は王と尓が大きく尓の第一画が長く伸びて王第四画ときれいに連なります。仙台濶字類の王は極端に大きくなるものがあります。
【私流その7 文字の配置バランスを確認する。】
文字の細かい特徴を調べる前に、もう一度文字全体の配置バランス(郭や輪と文字の位置関係)を確認して下さい。
じっくり見ていると
離郭系のものと寄郭系のものが見えてきます。実はこの感覚が古寛永分類には欠かせません。どちらかが見えたら銭種の系統が絞り込めるはずです。
たとえば水戸銭力永、勇文、正字、仙台正字類は郭に近く、水戸星文手類は離郭します。練習で上の銭譜を見て下さい。実力がつくこと間違いなしです。
← 星文手(離郭)と正字(寄郭)・・・違いが判りますか?
その6は岡山・松本系 と 水戸・仙台・長門系を分類するもの。例外はありますが
岡山・松本系は文字が小さく寶珎がこじんまりとしてバランスが良く
水戸・仙台・長門系は文字がやや大きいものが多く、寶珎の自己主張が強い傾向にあります。
ただし、これはあくまでも私の感覚です。
この判定で岡山銭あるいは松本(太細)銭と判定されたものを銭譜で確認して言って下さい。
その7は極意と言っても過言でないスキルです。古寛永の銭譜を見る上で意識して行っていることですが、迷ったときにとても役に立つ観察手法です。
意外なそっくりさんに注意しましょう。
長門銭勁文 と 水戸銭広永
私は両銭のルーツは同じだと思っています。勁文の方がごつごつした書体で寛字、寶字に癖が強いのですが、文字の配置バランスは近似しています。
古寛永収集に慣れてしまっている人はかえって気づきにくいポイントです。
※両銭とも平永気味ながら永字の洽水点がやや高く、わずかに仰寶、俯用通です。その結果、永字のすその広がりが強調されます。ただし、長門銭は削字が激しいので必ずしもこの特徴が残っている訳ではありません。
※さらに長門銭には広永様、水戸銭には広永背異というものがあってややこしい。
長門銭麗書 と 仙台銭寛字
これまた文字バランスはそっくりです。ただし寛字のほうが文字が大きく、とくに寛目が大きいのが目立ちます。仙台銭にも白銅色のものが散見されるので気をつけましょう。なお、この書体は水戸背星文を手本としているようです。材質の差、永字の払いのカーブ差(星文類が緩やかなカーブを描くのに対し、麗書や寛字は直線的になること)にご注意下さい。
→ 岡山進永銭 も同じ系統の書体だと思います。
竹田(信濃松本)銭 と 仙台銭跛寶昂通
並べてみると全く違うのですが、平永、仰寶という特徴だけを追い求めていると間違えます。
仙台銭正字手 と 水戸銭正字 と 長門銭正字様
これに長門銭の正字様が加わると拓本で見分けるのは極めて困難・・・というよりも無理かもしれません。これらは制作や銅質を合わせて見分けるのが正しいからです。水戸銭は黄褐色、長門銭は白銅質系。仙台銭はやや白っぽい銅質が多いのですが、少し文字が細く字画に癖が出ています。
→ そっくりさん集合! 1 古寛永星文手系の書体比較です。(文字離隔)
【私流その8 寛足の分岐点と後足の形状を見ます。】
分岐位置が郭の右側に偏って寛後足が窮屈なもの、中央から丸く分岐しているものなどがあると思います。前者は水戸銭系、後者は水戸広永や仙台正字手類などです。この特徴は漫然と観察しているときは気づきにくいものです。
ここまでで水戸宏足寛手類をある程度拾い出せればGoodです。
 
【私流その9 寶足の形状を見ます。】
寶足のどちらか一方の長短、あるいは全体の傾きを見ましょう。後足が短い良如手類、全体が傾いている仙台銭系が発見できます。
【私流その10 その他の文字の特徴を探します。】
書体をじっくり見ます。例えば・・・
①寛末画を見ます。後ろ足部分が短いものは水戸狭足寛、末尾の跳ねが短いのは岡山短尾寛です。
②まとまっていて文字が大きめなのは仙台の正永、寛字類です。長門銭の麗書や裕字も大きめです。
③文字が大きくきれいなのは水戸星文類、正字類、仙台正字手類、寛字類です。

※おおよその判断がついたら銭譜と照合します。上の拓本群の中から似ているものを選ぶのも良し。あるいは下の分類表のポイントを参考にするのも良いでしょう。水戸、岡山、仙台の区分がここで完了できればすばらしい。
古寛永は変化が激しいので、分からなかったら一旦保留しておくことをお勧めします。じっくり考えましょう。
【私流その11 ひたすら銭譜と照合。自然に覚えてゆきます。】
古寛永は加刀変化が多く、決定的な書体差が見出しづらいのが本当のところ。やはり銭譜を普段から眺めて、鋳造地別書体の印象を植え付けておきましょう。
濶縁縮字になったものは特に難しい。縮字で書体の崩れが著しいものは水戸銭(宏足寛など)系と岡山銭(婉文・短尾寛)系に良く見られます。縮字にはなっていてもどこかにその銭の特性は残されています。
ここまで読んでこの程度の結論・・・と思われた方はごめんなさい。古寛永は本当に難しいのです。やはり普段から銭譜を眺め、古銭に慣れ親しむこと以外の近道はやはりないと思います。

2006年末に面白いサイトがオープンしていました。古寛永分類には良い資料に発展すると思います。

→ 古寛永のアナ
試作 古寛永 基礎分類表
掲載番号 新分類名 旧分類名 主な銭種 分類のポイント
初期不知銭(私鋳銭)
開元手 太平手 永楽手 二水大寶 鐚銭や島銭の風貌を持つ珍銭群
初期不知銭 志津磨大字 狭穿 寶連輪 二水永マ頭通 制作年代が特に古いと推定されるもの
二水永銭 背三 背十三 背星 背刮去 濶縁 短寶 長字 二水永になるもの
御蔵銭 大字 正字 大永 長尾寛 大寛 小永 小字 加刀による素朴な制作
信濃松本銭 竹田銭 斜寶大様 斜寶細縁 斜寶失点尓 斜寶高寛 仰寶、平永のもの
高田銭 肥永 肥永小字 肥永降寶 縮通 永字ノ画打ち込みなどに特徴
坂本銭 坂本銭 跳永 不跳永   大字濶永 爪頭永 爪辵になるもの
仙台銭 仙台銭 大永 跛寶 退永、仰寶 直線的な書体
仙台濶字銭 濶字 濶字手 大字濶永 同系統の書体
濶字刔輪 濶字手刔輪 文字寄郭
仙台正字手 寛字 五大点 大字濶永 文字が正しく配置される
正字手 三大点 文字が寄郭
10 岡山小字銭 岡山銭 小字 小字刔輪
11 岡山縮字銭 縮字 縮字広穿 独自書体 ほぼ書体変化なし
12 長崎銭 大字 小字
13 長門銭 異永 奇永 麗書 裕字 勁文 白銅質で制作に一致点
星文様 正字様 俯永様 太細様 広永様 他座書体
14 長門様参考銭 仰永様 流永様 浮永様 ほか 
15 水戸背星文銭 水戸銭 背星文 背星刮去  水戸銭
グループ
文字が離郭
16 水戸星文手類 星文手 無星文 
17 水戸広永銭 広永 広永背異 文字寄郭
18 水戸力永銭 力永 勇文 永字に特徴 文字寄郭 
19 水戸正字銭 正字 正字広永 文字寄郭
20 水戸宏足寛手類 宏足寛 勁永手 勁永 短足寶 狭足寛 大目寛 退足寛のものが多い
(寄せ集めのグループ)
21 岡山短尾寛銭 岡山銭 短尾寛  文字離郭
(寄せ集めのグループ)
水戸銭 正字縮字
松本銭 太細短尾寛
22 常陸水戸銭 水戸銭 長永  大字濶永 書風に類似性
長永手 仰永 浮永 流永
23 吉田銭 吉田銭 狭永 狭永削頭尓 狭永小字
広永
不知銭 降寶 
24 不草点類 坂本銭 高頭通 不跳永 正永 書体に類似性
(寄せ集めのグループ)
不知銭 長尾永(坂本銭に転籍)
水戸銭 湾柱永
芝銭 細字 不草点 
高田銭 笹手永手(芝銭に転籍) 
笹手永 仰頭通 退寛 長寶
25 芝銭 二草点 二草点手 四草点  草点になる
細字 接郭 跛寶になる
26 明暦浅草銭(旧沓谷銭) 大字 小字 大字俯頭辵 萎足寶 長通 狭用通
27 井之宮銭 縮寛 長通 寛字以外が大きい
28 明暦駿河銭(旧鳥越銭) 高寛 低寛 ニ頭通類
29 水戸放永銭 水戸銭 放永 放永平永 放永手 中字平永 平永仰フ永
30 仙台長尾永銭 仙台銭 正永 長尾永 長尾永小字 特徴少ない
31 岡山長尾永銭 岡山銭 長尾永 跪寛 長尾永 跛寶になる
32 岡山俯永銭 俯永 俯永抬頭永   永頭、フ画が俯すものが多いが例外あり
俯永伸寛 俯永小永 俯永短尾永 俯永手
33 岡山長嘯子銭 長嘯子 長嘯子小字 長嘯子肥字 濶縁小字  永頭永尾が長い
34 岡山良恕銭 良恕 良恕小字 良恕手 王と尓が連なる
35 岡山婉文銭 婉文 婉文濶縁 弱々しい書体
36 岡山進永銭 進永 進永小字降通 進永小字縮通 進永、文字離郭、細字
37 太細銭 松本銭 太細 太細小字 短爪寛  永頭細く永柱太い
幺永 歪永  極端な平永