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24.不草点類

このホームページが実験的なものであることを物語る分類です。制作的には鋳地が同じであるとはとても言えませんが、いざ拓本などで分類を試みると非常に分類に悩むのがここに含めた銭貨群です。互いに酷似しており、明確な特徴に欠けます。銭譜は鋳地別で掲載されているため、似ている書体が分散してしまっています。古寛永の分類をあきらめてしまうのはだいたいここらへんの壁にぶちあたるからです。その意味でわけの分からない一群をここで先に選んでしまおうというのが私の考えです。したがって書体に類似性はありますが、制作にはかなりの差があります。そのことをご承知の上でご閲覧下さい。(面倒臭かったら飛ばしてみて下さい。)

水戸銭の 湾柱永 と坂本銭の 高頭通 正永 不知銭の 長尾永 芝銭の 不草点 高田銭の 笹手永 笹手永仰頭通 をまとめています。混乱を避けるため、分類名称の前に仮の鋳地を冠します。
 
特徴:すべての点が不草点で、退永気味になる。
 
基本書体の比較
水戸 湾柱永        【評価 8】
永柱がわずかに湾曲する癖があるためこの名称がつけられている。筆法は高頭通とほぼ同じで拓本による差はほとんど分からない。寛後足が郭の外側にはみ出ること、寶字俯し前足が長く下側に伸びること、永点は横点になる傾向があることなどの微妙な差がある。制作は全く異なり、銅色は黄褐色。面側の砂抜けが悪く、書体がごつごつするものが多いが、掲示品はかなりの美銭である。
※流永と酷似していて、その系統であろうが銅質や制作に差がある。
→ 水戸 流永類
坂本 高頭通(濶縁背広郭) 【評価 8】
寶字がほとんど俯さず寶尓、寶貝、寛目が小さい。永尾はやや浮き気味でフ画の広がりがない。通点の位置が高く、通辵から離れる。高頭通の名前どおり通頭の大きくみえるものもあるが、そうでないものも多い。銅色は淡褐色、黒褐色~紫褐色などで以下に掲示するものとはかなり異なる。筆法や銅色は坂本銭の正永や四草点に近いものがある。大濶縁になる稀品があり、これは坂本銭の跳永と同一の特徴である。
→ 坂本銭
坂本 長尾永(旧不知銭)  【評価 6】
制作と筆法から坂本銭であると私的に断定した。跳永と各文字とも非常に近似している。通辵も頭が反り返る癖がある。
正永との違いは寶字がやや俯し気味で
前足が反り長いこと、永フ画がわずかに仰ぎ気味なこと、永字がやや冾水気味で末尾が長いことなどである。

この銭貨にしろ正永にしろ、通字の特徴に気づかないと分類の迷宮に入り込んでしまいます。ご注意下さい。
坂本 正永           【評価 8】
書体的には特徴が少なく後掲の芝銭に酷似するが通頭やや平たく通辵に爪(反り)があるのが明らかに異なる。通字全体から受ける印象はやはり坂本跳永とそっくりである。通点が辵から離れるのも特徴。
仙台銭と紛らわしいので反頭辵という独自名に改めたのですが、チャクという漢字変換ができないのと対外的には通用しない名称なのでやめました。制作や書体的には芝銭の四草点に酷似しています。
→ 芝銭
芝 不草点(母銭)    【評価 3】
端整な書体ではあるが文字の強弱というか、どことなく癖がある。寶尓が大きく、寶足も比較的揃っている。不草点手というものがあるそうだが、不草点離点永とすべきであり、一手に分ける必要はないと思う。また、高田銭に笹手永手なるものが存在するが、その多くが不草点の変化であると考えられる。


← 不草点とされるものの尓
高田 笹手永手(本体)   【評価 6】
不草点との差をほとんど見つけられない。わずかに寶尓の前点の位置が低く、通頭が大きく用画から離れる。不草点と同じ類としても良いと思う。




← 笹手永手とされるものの尓
高田 笹手永          【評価 8】
不草点とそっくりで、一見してその差が分からりづらい。わずかに筆法が強く鋭いこと、通字のしんにょうの下部が直線的でなんとなく前のめりに見える。内跳寛、離頭通気味で寶尓の前点が小さく、寛冠の前垂れが開くことが決定的な差である。背に深浅があり、背郭が不揃いでごつごつした感じのものも多い。笹手永手なるものは筆法と背の制作は不草点そのものであり、笹手永からは除外するべきと考える。なお、笹手永は水戸鋳であるという報告が毛利家伝承の手本銭研究から伝えられており、江戸座の芝不草点とこの笹手永類との近似性が地理的側面から説明がつくような気がするのだが・・・。→ 高田肥永
高田 笹手永仰頭通     【評価 7】
面背のごつごつした感じは独特で、笹手永削字といっても間違いないと思う。よく見れば一連の銭貨の書体系統を引いているがとにかく変化が著しい。通頭の上辺が反り返り気味になる。この書体ならば高田銭といわれても納得できると思う。

不草点類の変化例 
坂本 高頭通小点尓    【評価 8】
小点尓のほうが通頭が高くなるのが良く分かる。
寛後足が郭より右に出ないこと・寶字があまり俯さず尓が小さいこと・通点辵頭から離れ高い位置にあること・寛目、寶貝が小さいことがポイント。やや永尾が浮き気味に見え、本体銭より永フ画の広がりも少しあるように思う。
坂本 高頭通小点尓陰画    【評価 9】
上掲銭も書体が崩れ気味だが、さらに濶縁小字となり書体の崩れが見られるもの。湾柱永崩永との差は寛尾位置、通寶字が小さいこと、寶貝が小さいことなどで判断。書体変化はおもしろいが見栄えがしないので雑銭扱いされる。
坂本 高頭通大濶縁      【評価 2】
跳永の大濶縁は有名だが、こちらも数は少なくやや珍品に属する。上掲の濶縁よりさらに輪幅広く文字も縮小している。なお、本品は三上香哉(花林塔)旧蔵品ということでインターネットで衝動買い入手したもの。大濶縁には間違いないが、秘宝館に掲載したものに比べればワンランク下がるものだと思う。
水戸 湾柱永(崩永)    【評価 8】
書体に崩れがあり、個人的にはこのほうが湾柱永らしいな・・・と感じている。濶縁になる前段階のもの。高頭通の陰画と非常に紛らわしい。
水戸 湾柱永(濶縁背中郭) 【評価 7】
濶縁小字になるもので、外径が25㎜を超えるものは珍しい。高頭通との差は微妙であり、むしろ銅色や制作の差で見た方が早いかもしれない。書体が崩れるという特性があり、特徴はそれに起因する可能性がある。寛後足が郭外にわずかに出ること、寶前足が寶貝から離れて垂れ下がる癖があること、永点が横点気味なことを観察して下さい。大濶縁の名称は坂本銭のみに許されているものだが、湾柱永にもこのようにその名にふさわしいものが存在する。
芝 不草点(白銅銭)    【評価 4】
不草点は黄褐色のものが多いが、ときおりこのように白く抜けているものが見つかる事がある。珍品というほどのものではないだろうが、数は多くないと思う。
芝 不草点(銀銭)      【評価 少】
かなり昔に入札で入手したもの。一応は書体などに矛盾はないが、真贋不明。芝銭の銀銭は比較的市場で見かけるが、真贋を見分ける方法が確立していないと思われるため深追いは禁物。
芝 不草点(瑕寶)      【評価 7】
古くは不草点手と呼ばれていた書体の代表である。永頭が長く、永点が小さく永頭から離れる。瑕寶とは寶王郭の第3画左側が欠けるもの。粗銭が多く見栄えはしないが少ないもの。不草点の本体にも存在するようだ。
芝 不草点(細字)      【評価 7】
一見、常陸水戸長永や吉田狭永を連想させるが、寛目が幅広く、通字の形状も異なる。(扁平である。)永字も幅広さを感じる。やや仰頭通となる癖がある。

※細字へ移行する過程の変化と思われます。そのため不草点本体と細字の両方の特徴を持っています。


→ 細字 
芝 笹手永手(退寛尖足寛) 【評価 2】
笹手永手を分類上、不草点に統合した場合、どうしても残ってしまうものがある。その代表格が退寛類である。文字全体が縮小していて、狭穿気味で寛字後足が郭の右側に完全に飛び出す。また、文字が郭から離れる癖があり、とくに通字に離郭傾向が著しい。つまらない書体だがなかなかの珍銭である。
高田 笹手永(本体)    【評価 8】
笹手永らしく力強く、細字ながら文字に躍動感がある。芝不草点と紛らわしい書体だが、私は通字の形状で区別している。掲示品は細縁大字で鋳造初期の書体に近いと思う。(最近まで分類名を間違えていました。)
高田 笹手永(中様)    【評価 3】
直径25.3㎜。笹手永にも直径が26㎜を超える大様銭が存在する。本銭はあと一歩のところ。それでも少ないと思う。
なお、大様銭の存在という共通点がこの書体類全体に見られるのである。
高田 笹手永(濶縁)    【評価 8】
濶縁小字銭である。不草点の濶縁小字はかなり貴重であるが、笹手の濶縁小字は比較的見る事が出来る。
高田 笹手永仰頭通(浅背) 【評価 7】
本体に近いものが入手できたので掲示します。
高田 笹手永仰頭通(細字) 【評価 3】
細字というより削字で、御蔵銭的な雰囲気を持っている。書体は全く崩れてしまっている。ただし、背のつくりは高田銭の深背の形状そのものである。
なお、この書体は厳密には欠尾永と呼ばれる種類であり、本体に比べ永フ画があまり仰がず、フ画横引先端が下側にふくらみ、永尾が短くなっているのが約束だが、掲示品はやや尾が長めに見える母銭級の厚肉大様美銭である。そのため評価を少し上げた。母銭なら2ランク以上上がる。
※掲示品は永尾先端部に瑕がある。断尾永状態。
高田 笹手永仰頭通(細字) 【評価 2】
こちらは本体系に属す書体。永尾がやや直線的に長く伸びるのが約束だが、掲示品はやや尾が湾曲しているように見える。それは永尾に入ったタガネの一撃によるものらしく、その他の書体約束(仰頭仰フ永、寛後足の分岐点が方折気味、寶尓の第一画が鋳切れる。)は本体そのものである。なお、掲示品と上掲示品は永尾の傷、寶下のくぼみや輪内部の微妙な凹みが一致する。元になった原母銭は同じなのではないだろうか?準兄弟銭か?
※本体書体の約束は私の観察による説ですが、ほぼ間違いないと思います。この銭も大ぶりで通下に三三四の朱書きが残る品。
 
 
 
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