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0.初期不知銭(私鋳銭・祝鋳銭)

ごく初期に小規模鋳造されたと推定された寛永通寶です。私には所蔵品がなく、永久に関係ないと思っていましたが、ありがたいことに投稿画像を頂きました。記念に記事冒頭を飾らせていただきます。
太平手  二水大寶
太平手(写真左)            【評価 大珍】
中国は北宋、太平通寶の書体に良く似ているもの、銅色は青褐色。本品は平成14年の銀座コインオークションの出品です。

二水大寶(写真右)          【評価 大珍】
紫褐色でどろんとした風貌、島銭のような書体。ほんとうに奇抜な寛永銭です。もう一度会えるとは思いませんでした。本品は平成16年のオークションネットⅢの出品です。太平手、二水大寶は寛永の文字書風に類似性が見られます。その点が非常に興味深い銭貨です。
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開元手             【評価 大珍】
平成16年の銀座コインオークションの目玉商品です。長らく現存一品と言われていましたが3~4品存在するようです。

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(平成16年銀座コインオークションカタログより)
永楽手           【評価 大珍】
これもまた初期不知銭の大珍品です。書体を見てすぐ判るように明の永楽通寶の改造鐚銭です。寛字の跳ねが独特で非常に力感に溢れています。

(平成17年銀座コインオークションカタログより)



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元和手番銭           【評価 大珍】
銀鋳であり、祝鋳銭であると考えられています。元和通寶と類似した筆法であることから元和手とされていますが、初期の不知銭であることに間違いはありません。銀銭ということで通常は銭譜の巻末に掲載されることが多いのですが、あえて冒頭を飾らせて頂きます。制作から見て官炉鋳造の可能性が高いと思います。背の番号は1から100まであるようです。

(平成16年銀座コインオークションカタログより)
 

 
1.初期不知銭

初期の官鋳銭と思われながらも銭籍が確定できない一群です。素朴な味わいを持ち、人気銘柄ぞろいです。

志津磨大字 狭穿 狭穿大字 寶連輪 魚尾寶 異寛小永 二水永マ頭通 などが知られています。
  
志津磨大字(本体)        【評価 珍】
本画像はK氏からの投稿画像です。300枚の寛永通寶の山から選り出したと聞きました。銭径文字とも雄大で永尾が跳ねるのが特徴です。存在は本当に希少で島屋文より少ないのではないかとも言われています。しかもすこぶるの美人です。これほどの上玉にはまず滅多に出会えないと思いますよ。最高です!


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→ 撰銭の達人
志津磨大字本体(磨輪小様) 【評価 珍】
平成25年11月にネット落札してしまった品。ちょっと磨輪されていますが、状態としては良い方だと思います。影の関係で平永風に見えますが本体銭です。・・・と思い込んでいましたが、どうも平永の変化のような気がしています。永尾が輪から浮いています。
※やはり本体でした。拡大画像を添付します。
志津磨大字平永       【評価 少】
柳斉大字との別名もある有名品。銭径大きく文字も巨大。掲示品の直径は24.9㎜。初期銭は文字の太細が目立つ素朴な書体が多い。
後掲する御蔵銭が別名志津磨百手の別名を持つように、御蔵銭との書体近似性を持っている。寶王画の横引きが急角度で俯している。志津磨大字平永は最近ときおり市場で見かけるようになった。
志津磨大字平永(降点永)  【評価 少】
永点が小さくなる。掲示品は深彫りの大様で直径は25.35㎜。志津磨大字には本体銭があり、それは平永にならず永の左右画が跳ね上がる。
狭穿大字          【評価 大珍】
下掲の狭穿に良く似ているが、寛見、通頭が大きく志津磨大字との類似性がある。

(平成17年銀座コインオークションカタログより)
狭穿                   【評価 2】
別名は浅草狭穿。浅草=御蔵銭であるから、御蔵銭との関連があると考えられたものであることがわかる。文字素朴で深彫りで小さな銭面に伸び伸びと書かれている。そのためか穿が目立って狭くなっている。銅色は黄褐色~赤褐色。掲示品も小点永気味で本体は永点が郭にほぼ接している。
狭穿(小点永)      【評価 2】
永点が小さくなるもの。掲示品は背に鋳ざらい痕が残る伝世の美銭である。
類品に狭穿大字という超珍品があり、これは狭穿と志津磨大字との中間体になる。
寶連輪          【評価 稀】
寶字貝画の爪が輪に接しているもの。これも有名品である。永フ画が仰ぐのも特徴。書体は素朴さはあるものの上掲の諸銭ほどの朴訥さは感じられない。寶連輪大字という超珍品(現存3品)があるが、それは寶後足が跳ねる。
魚尾寶          【評価 大珍】
寶足が魚の尾のようにひらく有名源氏名銭。銭径も雄大。

(平成17年銀座コインオークションカタログより)
異寛小永         【評価 珍】
寛足、永字の左右バランスがおかしい奇書体の古寛永。昔からの有名品である。

(平成17年銀座コインオークションカタログより)
二水永マ頭通大字     【評価 大珍】
一般的な二水永マ頭通より全てがひとまわり大きく、また深背も特徴である。大字というより大型銭であるが制作が良いわけではない。なお、この品物は古寛永銭志を飾った原品でもある。

(平成17年銀座コインオークションカタログより)
二水永マ頭通       【評価 2】
文字通り二水永でマ頭通である。近年海外からの帰還品が増えたが、掲示品は伝世品である。銅色は黄褐色が多いが、掲示品のような紫褐色のものもありやや少ない。
二水永でありながら不知銭とされるのはその風貌と粗製な点からであり、官鋳ではなく民間の貿易銭であった可能性も否定できない。時代も案外降るかもしれない。


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2.二水永銭

寛永通寶の初出の頃のものと予想されます。背に文字や記号のあるものがあり、年号をあらわすとも地名(水戸)をあらわすとも言われています。特徴については説明不要でしょう。

背三 背十三 背星 背刮去 濶縁 短寶 マ頭通長字 
などに分類されます。
特徴:永頭が右側に突き出し、二水になる。銅色は概ね黄褐色が多い。
 
二水永背狭三        【評価 珍】

背三の幅が狭いだけでなく、永頭の横引きに必ず凹みがある珍品。

(平成17年銀座コインオークションカタログより)
二水永正三                【評価 大珍】
背広三との差は微差だが、評価は天地ほどの違いがあるもの。(古寛永を専門にしていなかった私にはまだその差異が良く判っていません。参考掲示とさせて頂きます。)

(平成16年銀座コインオークションカタログより)
二水永背広三               【評価 稀】
背三の意味は寛永3年を意味するとも言われているが、あるいはミトという鋳地を表しているのかもしれない。辵のうねりが多く、二水永になる。永尾が跳ねる。通頭に必ず鋳だまりがあります。

(平成15年銀座コインオークションカタログより)
二水永小字背星              【評価 少】
大字に比べて永フ画が短く小さい。最近、市場に現れやや評価は低落気味であるが少ないものである。

(平成15年銀座コインオークションカタログより)
大字背星刮去               【評価 1】
小字との明確な違いは永フ画が長いことくらいである。背星が刮去されたもので背星もある。
濶縁               【評価 1】
書体は背三、背十三の系統で通頭が伏すのが特徴。また輪が太く縮字になる。
二水永短寶          【評価 稀】
書体が全く異なる。短貝寶、狭永で美銭が多い。市場評価は高いが比較的良く市場に現れる方である。

(平成17年銀座コインオークションカタログより)
二水永長字            【評価 稀】
マ頭通であり、文字全体が細長い。不知銭の二水永マ頭通に似ているが制作が端整であり、とくに通字の形状が異なるため判別は容易である。
※寶字後足が下がる点、永フ郭がやや千木永風で長いことなどが、不知銭のマ頭通と異なります。ただし、この銭は後作であるという説も根強くあるようです。


(平成17年銀座コインオークションカタログより)
背十三
私も未見の珍品。ここしばらくは市場にも現れていません。拓だけですがご参考にまで・・・。本物はないのかもしれません。
 
 

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3.御蔵銭

別名の志津磨百手という名称が示すように、加刀によって文字が変化しています。中間的な書体も多く当然完全分類は不可能です。背細郭のものがほとんどです。

大字 正字 跳永 大永 長尾寛 大寛 縮寛 小永 小字 長永 
に基本分類されます。 
特徴:加刀による書体の崩れが著しい。背郭は細くなる傾向。銅色は概ね黄褐色。
大字(美制)        【評価 7】
この書体が御蔵銭の原点であろう。お恥ずかしい話だがこれが御蔵銭であるという自信が持てないかった一孔である。文字の崩れがほとんどなく、やや白銅質気味に見えるので長門銭であることまで疑ってしまったもの。背郭から御蔵銭でほぼ間違いないものだがいまだにしっくりこない。御蔵銭は文字の太細や削字があるという思い込みによるものだが、私もまだまだ・・・勉強が必要だと思う。
※このほとんど削字変化のない書体はいづみ会、泉志ともに未掲載です。
大字(草点永)              【評価 7】
文字が大きい。ポイントは永ノ画が永頭より高い位置から打ち込まれること。寛尾が郭の右側にはみ出す。書体はとにかく素朴。銅板から直接文字を彫り起こしたように見えてしまうほどである。ただし、大字には字画の整ったものがある。本銭も比較的そうであるが、次掲品を吟味して頂きたい。背輪と郭が細くなるものが多く、この点もポイント。通頭は俯す傾向が強い。
大字(外跳寛)              【評価 8】
書体が崩れいかにも御蔵銭らしい風貌。寛永通寶(古寛永銭)大分類の手引き(赤羽秀一著)によると本銭は跳永に分類されると思う。手引きの跳永は大字と正字の中間体を意味するが、古寛永泉志の跳永は正字と大永の中間体のものが多い。どちらの意見を採るか迷うところだが、分類法上は手引きの方が判りやすく正しいと思う。ただし文字の大きいものはやはり大字としたいと思うので大字跳永、正字跳永があっても良いと思う。
正字(短尾永母銭)        【評価 3 通用銭 9】
正字は大字からの変化で、大字との中間体も多いと思うが、ポイントは永ノ画の頂点がほぼ永頭と並ぶこと。また、永字の均整がとれている。掲示品は未使用の母銭で彫りが深く背の形成も見事である。
跳永(平永)               【評価 9】
正字の系統であるが、永の左右の払いが跳ね上がる癖がある。永字もかなり扁平に変化しているものが多い。通頭が進み俯し通字が前かがみになる傾向がある。掲示品は大永との中間体的なもの。(永字の形はほとんど大永に近い。)なお、この分類は古寛永泉志によるもので、大字の項にも記述したが跳永の区分は実にあいまいである。
大永(曳尾母銭)            【評価 3 通用銭 9】
永字が扁平になり幅広い、各文字ともすっきり伸び伸びとしている。上掲銭との書風の違いを感じて頂きたい。
大寛                   【評価 6】
寛字後足がL字状に方折し、分岐点がはっきりすることと、寛前垂れが大きく長く開くことがポイント。また文字がごつごつ角ばって大きい。存在は比較的少ない。
長尾寛(横点永母銭)       【評価 3 通用銭 9】
寛尾が長く跳ね、座寛気味になる。文字の崩れや変化が多く通字が輪に沿って猫背気味に丸くなるもの多く、通頭、永頭が仰ぎ気味になるのがポイント。素朴で文字変化が著しく、最も御蔵銭らしい品種である。
縮寛                         【評価 9】
寛字が縮み輪から離れる特徴を採るが、ポイントは寛冠の前垂れが開かず大寛や小永より短いこと。掲示品は大寛の流れ引くもので大寛手と呼ばれることもあるもの。大寛手縮寛というのも変であるが、小永手の縮寛もあるようだ。中には寛字が小さく見えないもの(長寛)もあるので、分類はやっかいである。どちらかと言えば分類上の残り物的な存在。
小永(母銭)           【評価 3 通用銭 9】
必ずしも小永にはなるとは限らないので注意。寛冠の前垂れが、大寛ほど開かないが縮寛よりは開き長い。総じて深字が多い。永の払いの先は太くならず力感がないものが多い。縮寛や小字ほど隔輪しない。文字はやや角ばってごつごつした感を受ける。
小字                   【評価 9】
文字全体が縮小して、隔輪するのがポイント。小永と異なり永尾の末端が太くなり、払いがしっかりしているものが多い。小字をさらに広永として細かく分類することもある。また、細字という分類もあるようだが先に述べたように御蔵銭は加刀による細かい変化が多く、細分類したら際限がなくなる。細分類は各自の感性でブレーキをかけて頂きたい。
長永                   【評価 少】
御蔵銭中の最難獲品とされる。永点上部、寶貝の爪の下部、寶足先端の輪部に傷があるものが多く、それが選りだしのポイント。永柱が湾曲し、フ画が大きく見える。大寛から長尾寛や小永に変化する過程で派生した一類だと思う。

(左:古寛永泉志より 右:方泉處8号より)
小永離用通大様母銭     【評価 1】
外径25.25㎜、重量4.6gとかなり大ぶりな御蔵銭。銭種としてはごくごく平凡ながらこの大きさは評価して良いと思われます。
長永                 【評価 少】
書体を比較する限り、確かに長永になるのだろうが、鑑識のポイントがいまひとつはっきりしない。長永の鑑識は難しく、少ないものには間違いないが市場評価はやや過熱気味だと思うのだが・・・。掲示品は背郭がやや広くなっているのが珍しい。

(平成17年銀座コインオークションカタログより)
正字覆輪大様銭        【評価 稀】
外径25.54㎜の大様銭。御蔵銭にはごく稀にこのようなものが存在するようである。覆輪による大様銭であり、内径が少し縮小するのも特徴のようである。

(平成17年銀座コインオークションカタログより)

※ある古泉家からこれが水戸宏足寛の大様銭の可能性もあるとのご指摘がありました。なるほど、そう見えなくもありません。現時点では私には判断がつきませんので皆様のご意見をお聞せ下さい。
 
編集者から・・・
御蔵銭を細分類するという作業は、同銭の性格から言って無理な部分もあります。それでも代表的な書体で分類すると考えれば

大字・正字・大永・大寛(本体系のみ)・小永・長尾寛
その他(残りの書体全て)


で充分だと思います。細字や広永などに細分類されることもありますが、所詮加刀変化に過ぎません。代表書体は特徴的でかつ文字が大きいものを選んだ方が無難で、跳永は大字あるいは正字からの変化ですし、縮寛は大寛あるいは小永からの変化です。長尾寛以降は大寛系からの流れを受け継いでいると考えられます。有名品の長永だって大寛からの変化だと考えればやっきになって求めるようなものではないはずです。(負け惜しみ?)

御蔵銭長永鋳浚鋳母銭
(収集87年新年号 矢野勉氏記事より)
約束の傷はどれかひとつは必ず見て取れます。
永頭が長く直通気味なのが目に付きますね。


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