古寛永基礎分類譜
  浩泉丸編
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文久永寶の細道 新寛永通寶分類譜
天保銭の小部屋 赤錆の館(鉄銭の部)
はじめに・・・
穴銭を収集している方で古寛永通寶を専門にされている方は数多くいるようで、その実はかなり少ないのではないでしょうか?
最たる理由は
【古寛永通寶の分類が非常に細かく、習熟した収集家でなけれ判らない微差による分類が多いこと】にあると思います。また、品種が多いのに反し存在数が新寛永に比べて、絶対的に少ないことも原因に拍車をかけていると思われます。
さらに同じ書体を全国各地の銭座で使用したらしいことや、従来あてはめられていた分類上の鋳地に誤りがあったことも判明しており、正確に鋳地分類をすることはもはや不可能なのかもしれません。
それでも古泉家は古寛永を鋳地別にあてはめて分類しようとしています。

私はここで原点に戻り、書体や制作の特徴を今一度考え、分類の観点から見た銭譜づくりを行うことを試みます。同じ試みはかつて季刊方泉處においても行われていますが、私なりにその作業を行って再検証してみるつもりです。もちろん過去の分類研究を軽視するつもりはありません。ただし、配列や銭名についてはかなりいじることになります。
タイトルは勇ましいのですが、古寛永については新寛永ほど熱心に収集していたわけではなく、基礎的な収集分類しかできていません。ですからこの試みが無謀であること、力不足であることは承知の上のことです。肩の力を抜いてご覧頂ければ幸いです。

※分類名については改訂版 古寛永泉志(昭和51年 増尾富房編集 穴銭堂)に準拠しています。              
  
古寛永のアナ  古寛永の雑銭分類に関する解説ではピカイチのサイトです。
  
試作 古寛永基礎分類譜
※試験的な分類ですので、一般的な分類名称と異なります。ご了解下さい。
 
 0.私鋳銭の類 21.岡山短尾寛銭の類(称水戸・称松本銭を含む)
   
 1.初期不知銭の類 22.常陸水戸銭の類(水戸銭)
   
 2.二水永銭の類 23.吉田銭の類(不知銭降寶を含む)
   
 3.御蔵銭の類 24.不草点類(称坂本・称水戸・称芝・称高田銭等)
   
 4.信濃松本銭の類(称竹田銭) 25.芝銭の類
     
 5.高田銭の類  26.明暦浅草銭の類(称沓谷銭)
     
 6.坂本銭の類  27.井之宮銭の類 
     
 7.仙台銭の類  28.明暦駿河銭の類(称鳥越銭)
   
 8.仙台濶字銭の類  29.水戸放永銭の類
   
 9.仙台正字手の類 30.仙台長尾永銭の類 
   
10.岡山小字銭の類 31.岡山長尾永銭の類 
   
11.岡山縮字銭の類 32.岡山俯永銭の類 
   
12.長崎銭(称建仁寺銭)の類  33.岡山長嘯子銭の類 
   
13.長門銭の類 34.岡山良恕銭の類 
   
14.長門様参考銭の類 35.岡山婉文銭の類
   
15.水戸背星文銭の類  36.岡山進永銭の類
   
16.水戸星文手類 37.太細銭の類(称松本銭) 
   
17.水戸広永銭の類  ご覧頂ければすぐ判ると思いますが、旧水戸銭、旧岡山銭、旧仙台銭が名称を変えてかなり入り組んだ形になっているのが目立ちます。極論ですがこれらを見極めることができれば古寛永の分類は簡単にできるはず・・・と思って作業しています。とはいえ類似品が多すぎますので特徴ある部分から攻める方が現実的だと思います。細分類のためには【古寛永泉志】は手放せない文献ですが、大分類には【寛永通寶(古寛永)大分類の手引き】が結構役立ちます。ところが困ったことに2つの文献の意見が合わない部分が結構あるのです。結論から言うと【古寛永泉志】でさえ誤りがいくつかあると思われますし、【寛永通寶(古寛永)大分類の手引き】には旧説がそのままになっている部分が数多くあります。ただし、それは絶対的な誤りだという訳ではありません。もともと古寛永を完璧に分類するという作業自体が無理なのです。古寛永には中間的な存在や、鋳写しによる銅質や制作変化が多過ぎるのです。膨大な掲拓を誇る古寛永泉志が銭貨に何らかの籍を与える過程で、無理な分類が出てしまうのはしかたのないことであり、旧説に従った分類も一理あると思いますので、それらが銭譜の価値を貶めるものでは断じてないと思います。そして、過去の偉大な銭譜の神聖な領域に素人に近い私が土足で踏み込む非礼をお許し下さい。
 
18.水戸力永銭の類 
 
19.水戸正字銭の類
 
20.水戸宏足寛手類 
 
 
 
 
試作 古寛永 基礎分類表
 
掲載番号 新分類名 旧分類名 主な銭種 分類のポイント
初期不知銭(私鋳銭)
開元手 太平手 永楽手 二水大寶 鐚銭や島銭の風貌を持つ珍銭群
初期不知銭 志津磨大字 狭穿 寶連輪 二水永マ頭通 制作年代が特に古いと推定されるもの
二水永銭 背三 背十三 背星 背刮去 濶縁 短寶 長字 二水永になるもの
御蔵銭 大字 正字 大永 長尾寛 大寛 小永 小字 加刀による素朴な制作
信濃松本銭 竹田銭 斜寶大様 斜寶細縁 斜寶失点尓 斜寶高寛 仰寶、平永のもの
高田銭 肥永 肥永小字 肥永降寶 縮通 永字ノ画打ち込みなどに特徴
坂本銭 坂本銭 跳永 不跳永   大字濶永 爪頭永 爪辵になるもの
仙台銭 仙台銭 大永 跛寶 退永、仰寶 直線的な書体
仙台濶字銭 濶字 濶字手 大字濶永 同系統の書体
濶字刔輪 濶字手刔輪 文字寄郭
仙台正字手 寛字 五大点 大字濶永 文字が正しく配置される
正字手 三大点 文字が寄郭
10 岡山小字銭 岡山銭 小字 小字刔輪
11 岡山縮字銭 縮字 縮字広穿 独自書体 ほぼ書体変化なし
12 建仁寺銭 大字 小字
13 長門銭 異永 奇永 麗書 裕字 勁文 白銅質で制作に一致点
星文様 正字様 俯永様 太細様 広永様 他座書体
14 長門様参考銭 仰永様 流永様 浮永様 ほか 
15 水戸背星文銭 水戸銭 背星文 背星刮去  水戸銭
グループ
文字が離郭
16 水戸星文手類 星文手 無星文 
17 水戸広永銭 広永 広永背異 文字寄郭
18 水戸力永銭 力永 勇文 永字に特徴 文字寄郭 
19 水戸正字銭 正字 正字広永 文字寄郭
20 水戸宏足寛手類 宏足寛 勁永手 勁永 短足寶 狭足寛 大目寛 退足寛のものが多い
(寄せ集めのグループ)
21 岡山短尾寛銭 岡山銭 短尾寛  文字離郭
(寄せ集めのグループ)
水戸銭 正字縮字
松本銭 太細短尾寛
22 常陸水戸銭 水戸銭 長永  大字濶永 書風に類似性
長永手 仰永 浮永 流永
23 吉田銭 吉田銭 狭永 狭永削頭尓 狭永小字
広永
不知銭 降寶 
24 不草点類 坂本銭 高頭通 不跳永 正永 書体に類似性
(寄せ集めのグループ)
不知銭 長尾永(坂本銭に転籍)
水戸銭 湾柱永
芝銭 細字 不草点 
高田銭 笹手永手(芝銭に転籍) 
笹手永 仰頭通 退寛 長寶
25 芝銭 二草点 二草点手 四草点  草点になる
細字 接郭 跛寶になる
26 明暦浅草銭(旧沓谷銭) 大字 小字 大字俯頭辵 萎足寶 長通 狭用通
27 井之宮銭 縮寛 長通 寛字以外が大きい
28 明暦駿河銭(旧鳥越銭) 高寛 低寛 ニ頭通類
29 水戸放永銭 水戸銭 放永 放永平永 放永手 中字平永 平永仰フ永
30 仙台長尾永銭 仙台銭 正永 長尾永 長尾永小字 特徴少ない
31 岡山長尾永銭 岡山銭 長尾永 跪寛 長尾永 跛寶になる
32 岡山俯永銭 俯永 俯永抬頭永   永頭、フ画が俯すものが多いが例外あり
俯永伸寛 俯永小永 俯永短尾永 俯永手
33 岡山長嘯子銭 長嘯子 長嘯子小字 長嘯子肥字 濶縁小字  永頭永尾が長い
34 岡山良恕銭 良恕 良恕小字 良恕手 王と尓が連なる
35 岡山婉文銭 婉文 婉文濶縁 弱々しい書体
36 岡山進永銭 進永 進永小字降通 進永小字縮通 進永、文字離郭、細字
37 太細銭 松本銭 太細 太細小字 短爪寛  永頭細く永柱太い
幺永 歪永  極端な平永
 
古寛永収集を難しくしていると思われる要因

1. 微差に対し感覚的な分類をしている場合が多く、初心者には分かりづらい。
2. 古寛永そのものの存在数が少ない。
3. 文献が少なく、入手も難しい。
4. 鋳写し、加刀による変化が当たり前のようにあり、細分類したら際限がない。
5. 覆輪、刔輪などを伴う鋳写しが行なわれ、元になった書体を見極めるのが難しい。
6. 同じ書体が全国各地で鋳造された可能性が高い。
7. 書体がほぼ同じでも制作、銅質が異なるものがあり、分類を困難にしている。
8. 鋳造地名は書体系統の仮分類名に過ぎず、実際の鋳造地と必ずしも一致していない。
9. 新寛永に比べ分類名が未成熟で確定しない。同じような分類名が多く紛らわしい。
10.文献などによって分類名や鋳地名などが異なっている。

今後望まれる対策

1. ノギス計測の導入などによる本体銭、代表銭の特定。
2. 銅質、制作による分類検証、研究。
3. 類似書体+制作による分類方法のさらなる研究。
4. 感覚的分類だけでなく計測による分類方法の導入。
5. 分類の系統化、統合化により品種を絞ること。すべての変化を求めることはナンセンスである。
6. 発掘調査や文献の出現への期待。
7. 参考文献の再版。新文献編纂出版への期待。
8. 分類名称の整理と変更。銭籍の移動、再編。

※個人的には収集誌に掲載されたという、穴銭入門 古寛永の部 の改訂出版に期待を寄せます。また、一定期間の過ぎた古銭関係の銭譜の版権については書信館出版社か日本貨幣協会などが一括管理して、再版しやすくできれば良いと思うのですが・・・。
 
谷巧二氏による新分類
気になるところを枠線で囲ってみました。
(月刊収集2007年9月号から)
浅草橋場銭として芝銭を充てたのは分かります。流永・浮永・湾柱永もまぁ良いでしょう。でも俯頭永を編入した根拠は不明です。
芝新銭座に長永類ならびに称水戸銭をずらりと編入しています。
近江坂本銭に背星文が入ったのは妥当でしょう。ならば正永や跋永が残ったのはなぜ?
力永が編入されたのも大胆!
建仁寺は全くの推定だと思います。根拠が知りたいところですが、やはり仮銭籍なのでしょう。
大阪の類は鋳造地はともかくグループとしてはまとまっている。
水戸銭に笹手永類が入ったのは納得。でもそうなると宏足寛と放永が残ったのはやや不自然か?宏足寛と狭足寛の類似性はどこに行ってしまったのか?
竹田銭は寄せ集めですね。井之宮も仮銭籍。
岡山二日市場遺跡からの出土状況(月刊収集2007年9月号から)

ごらんのように岡山銭座跡からは縮寛、俯永手だけでなく坂本高頭通や水戸正字まで出ています。表には省略されていますがこの他にも通用銭は様々な地域のものが出土しています。
当時の結論は鋳造地断定を避けていると思いました。
と、いうのも寛永銭鋳造開始直後は原母銭と通用銭の製造分業が行われていて母銭(手本銭)は中央から供給されていた・・・とも考えられるからです。貨幣の規格を全国的に統一する意味では当然のことで、そのために鋳銭技術の発達していた長門の鋳銭工が全国に派遣された・・・というのもある意味納得できるお話だと思います。
私論ですが書体の個性と鋳造地に関連性が発生するのは寛永14年よりもう少し後の時代からでは・・・とも思われます。それまでは全国で共通の書体が使用されていた可能性があるのです。
極論すれば古寛永銭を書体で鋳造地分類することは不可能なのかもしれません。鋳造地名は分類名の一部にすぎず、中にはなんら鋳造地との関連性のないものもあると思います。そのため今、ふたたび鋳造地を仮銭籍に置き換えることは(収集家が混乱する意味から)極めて危険な行為だと思います。その点は収集誌上においても編集部がうっすらと匂わせています。
古くは小川青寶樓氏がその著作の寛永通寶銭譜や新訂天保銭図譜で大胆な仮銭籍移動を行っています。それは小川氏というビッグネームだからこそ成しえた作業でしょうし、谷氏も先師の発表を意識しているからこそ銭籍移動を実行したのではないでしょうか。何より著書名が同じ 『寛永通寶銭譜』 ですしね。

とはいえ、谷氏の著作は膨大な資料考察と現品観察、それに谷氏本人の経験と慧眼があるからこそ出来上がった立派な研究書であり、良書であるのは言うまでもないと思います。

なお、岡山縮寛類については金属成分からの分析アプローチがなされていて論文として公開されています。詳細記事は2007年1月7日の制作日記に記述しました。
 
   
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