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江刺銭の細分類研究譜
 
みちのく古銭会における発表(菅原氏研究など)から・・・
 
資料提供:秋田貨幣研究会
私としたことが、満足なお礼も申し上げておりませんでした。
ご協力本当にありがとうございました。
【江刺銭の特徴】
銅色 黄褐色〜茶褐色。黒変していることが多い。
輪側 横か斜めやすりの粗い仕上げ。
穿内 鋳放しが多い。
地肌 ざらざらした感じでやすり目はない。
銭径 明和期銭よりわずかに小さい。厚みは充分。
正字C
【はじめに】
江刺銭についての分類研究は川村庄太郎氏が発表し新寛永泉志に掲載されたのがきっかけで古銭界に認知されるようになったそうです。
その後地元の研究家たちの地道な調査により、いくつかの細分類がされるようになりました。第14回のみちのく合同古銭会黒石会場にて配布された資料が有名で、それには江刺銭の兄弟銭が多数取り上げられています。
本来の資料には計測データや解説が掲載されていますが、ここでは拓本を中心に簡略に紹介させて頂きます。

【かんたん解説】
江刺銭には同じ鋳だまりや、瑕を持ったものがよく見つかります。一般的には兄弟銭というべき存在なのですが、その存在率が半端なものではありません。自分の所有品を照合してゆくと意外や意外、次々に符合するものが出てきます。これらの鋳だまりや郭の歪みなどは製造過程で偶然にできたものではなく、鋳だまりなどをもった通用銭から母銭を作成して大量鋳造をしたものと考えられます。半ば計画的なな鋳だまりや歪みであり、存在数から見ても江刺銭は相当力のあった銭座のものであると考えられます。
なお、ここに掲載されているものの銅質には赤いものも相当数含まれていて、浄法寺銭との差異があまりないものもあります。
江刺という地は密鋳銭の銅産地から離れているため、あるいはこの銭貨はもっと北よりの浄法寺付近で鋳造された可能性も残っていると思われます。
その意味では、江刺という名称は改めるべきだという論もあるようです。とはいえ、現段階での江刺銭の研究については、この地元の方々の地道な分類研究に勝るものはありません。鋳造地がどこであれ、密鋳銭は制作技術などの類似点などで分類してゆくしかありませんので、その点でこの研究資料はまさに第一級のものであると思います。
なお、本研究についての記事転載を菅原氏にお願いしたところ快くご了解頂いた上に、資料までお送りいただけるとのこと。また、分類名称については現在、秋田貨幣研究会で検討されたものに順次変更してゆきます。

※矢印や〇囲みが鑑識のポイントですが、制作、やすり目などが江刺として基準適合していることも条件です。
もちろん、ここに図示されていない江刺銭はそれこそ多数あります。ご了解下さい。
 
大頭通 正字A 正字B 正字C
仮称)大頭通寶下輪決文 仮称)正字浮点寛 仮称)正字寶背輪星 仮称)正字欠跳永
正字D 小字A 小字B 小字C
仮称)正字湾柱永 仮称)小字寶上星 仮称)小字通下二点星 仮称)小字歪郭
小字D 小字E 小字F 小字G
仮称)小字通上湯走 仮称)小字玉持通 仮称)小字欠サ寛 仮称)小字通湯走
小字H 小字I 小字J 小字K
仮称)小字斜穿 仮称)小字背小星 仮称)小字背大星 仮称)小字寶連輪
小字L 小字M 俯永A 俯永B
仮称)小字背凸輪 仮称)小字凹冠寛 仮称)俯永背群星 仮称)俯永不跳永
俯永C 俯永D 俯永E 俯永F
仮称)俯永短柱永 仮称)俯永汚冠寛 仮称)俯永通上輪決文 仮称)俯永寶側凹輪
俯永G 俯永H 俯永I 俯永I−2
仮称)俯永通下小星 仮称)俯永断柱永 仮称)俯永瘤通(狭寛) 仮称)俯永瘤通背上星
俯永J 俯永K 俯永L 俯永M
仮称)俯永通決文 仮称)俯永短頭永 仮称)俯永汚冠寛 仮称)俯永通裏小星
俯永N 俯永O
仮称)俯永拡穿 仮称)俯永大頭通
鋳肌と銅質
江刺と言えば黒黄色でザラザラ肌が相場です。ところが密鋳銭の赤褐色のものの中に江刺風のものが現れ、江刺だ、浄法寺だとの論争が起こっています。非常に狭い地域内での密鋳ですから、当然ながら材料や技術の伝播はあったと思います。鋳肌が荒れるのは砂目の問題だけではなく、鋳造温度が上がらない場合に生じる現象・・・と、何かで読んだような記憶がありますが定かではありません。(温度が低いと湯の粘性が高く、湯周り不良が生じやすい。また、合金属の融合にむらが生じやすく残存不純物による気泡発生も生じやすい?)
明確に分類ができないものも確かにありますので、私はとりあえず〇〇系・・・と表示して逃げている状態です。どなたか決定打を放ってくれませんか?

私の基準(その他の密鋳銭との区別)
加護山銭は純赤に近い色と輪側面の縦やすりが確認できたものを充てています。やすり目が確認できない場合加護山系とします。
浄法寺銭はやはり浄法寺天保の銅色と輪側面のきちんとした横方向やすりを確認します。銅色が赤黒く制作が近似する場合は浄法寺系としますが江刺との中間体も多く困っています。
踏潰銭は銭面に現れる細かいやすり目と黄色っぽい銅色がポイント。もちろん背波の乱れは重要ポイントです。延展が見られても銅色が赤いものについては踏潰銭とはしません。

こうして見ると銅色の赤黒いものの処遇に困っていることが分かりますね。いっそのことこれらを白紙状態に戻してしまえば困らないのでしょうが・・・。
仮名称について
ここにつけた仮名称は下掲示する御蔵銭第19号の分類名称を基準に私が設定したものが混じっています。秋田貨幣研究会において提案された新名称に順次変更しておりますのでご了解下さい。(菅原様、資料送付ありがとうございました。)

輪のやすり目
江刺の特徴のひとつ・・・輪側面のやすり目ですが、何度か画像収録を試みたのですがうまく行きませんでした。
粗いやすり目・・・といいましたが、線状痕が粗いのではなく、やすりの当て方が手仕上げ風に何度も当てられている感じのものが多いのです。強いて言えば円空仏のような感じ。もちろん、やすり目は流通によって磨耗しますのではっきり残らないことが多いのですが、銭を傾けて光に当てると輪側面が丸みを帯びた多面体のように光るのが分かります。やすりの方向は面側、背側にもぶれて銭の縁をわずかに削ります。この点は私が浄法寺ではないかとしているものとの違いで、浄法寺は面背側へのやすりぶれはあまりなく、比較的安定した仕上げをしています。これは仕上げの際に銭を重ねてまとめて仕上げをしたか否かの問題ではないかと思います。
御蔵銭第19号 平成15年10月号から・・・
御蔵銭第19号にも江刺銭の細分類を発表記事があります。資料の出所は上記と同じかもしれません。江刺のバリエーションが名称と簡単な解説がついて分かりやすく示しされています。赤い文字は上記菅原氏分類による名称です。
 
その他の江刺銭
江刺銭は背11波がほとんどですが、稀にそれ以外のものが見つかるそうです。背21波は努力しだいで入手可能だそうですが、仰寶はかなりの珍品。
一文銭に至ってはまずお目にかかるのも難しいくらい・・・だそうです。
 
 
 
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