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7.元禄期 四ツ宝銭の類 元禄期以降 鋳地不明  
そのつくりが粗雑であること、大量に存在することから、昔から宝永期につくられた・・・と推定されて四寶銭の名称を受けていましたが、近年の発掘調査によって元禄期にまでさかのぼることがほぼ確定的になりました。四ツ宝の名称は不適切なものなのですが、銭籍が確定していませんので、そのまま使用することにします。
書体は自由奔放かつ個性的書風で、字画の爪や跳ね、制作のばらつきが目立ちます。
また、寛文銭に近い黄色いものが多い類(
肥字類:広永・勁永・勁永広寛)と小型で文字が細く銅色がやや黒味を帯びているもの(細字類:俯頭辵・跳永・座寛)のものに大別でき、必ずしもひとつの時期、銭座のものであるという確証はありません。旧来から四ツ宝銭に関係があると思われていた幻足寛は、書体から見て正徳期に該当すると私考します。
なお、銭相場がインフレ状態にあるのなら金銀改鋳は銭相場のインフレを抑え、幕府の収入=米相場を引き上げますのでこれは非常においしい操作です。元禄から宝永期にかけてはこのバブル(銭相場のインフレを起こしてから金銀を改鋳する。)の最中であり、それが富士山爆発によって崩壊したと考えるのが自然ではないでしょうか?

書体、制作から肥字類、細字類、正徳期と推定される幻足寛に分類されます。
元禄期 四ツ宝銭 【肥字の類】  
広永 【評価 10】
四ツ宝銭のなかではもっとも直径が大きく製作も安定しています。銅色は寛文銭に近い黄銅質から、赤茶色の粗雑なものまで幅広く存在します。書体には癖があり、筆はじめの爪が大きく類品中で一番永字が幅広いことから広永と名づけられています。
また、寛字が縦長でやや大きく、小王寶です。
広永(背細郭細縁) 【評価 8
背が細縁細郭になった特異錢です。大ぶりで母銭のようにも見えますが・・・。
広永(含白銅質) 【評価 7
書体などは標準的な広永ですけど銅が白っぽくなっているもの。実数は少ないと思います。
勁永白銅母銭 【評価 1
外径24.1㎜ 内径19.1㎜ 重量3.9g
堂々たる白銅の母銭。白銅質の母銭は別格の存在だと思われます。あるいは手本銭的な存在なのかもしれません。
勁永 【評価 10】
永字の幅が狭まり、フ画とく画がともに上がる昂水です。製作にはとてもばらつきがありますが寛文銭に近い黄色いものも散見されます。勁永広寛に比べ寛字の前垂れがやや垂直気味で、寛の足の根もとが離れ気味です。
勁永広寛(背刔輪) 【評価 9】

寛字の幅が広く、逆に永字の幅が狭くなっている。寛字の前垂れがやや開き気味で寛足の根もとが接近する。さらに寛足が弧を描くように曲がり長い。背輪が削られてやや細くなったもの(刔輪)があり、掲示品がそれにあたる。
勁永広寛破冠寛(イ) 【評価 9】
寛冠が寛点の直前で切れるもの。
勁永広寛破冠寛(ロ)瑕王寶 【評価 9】
寛冠の右側と寶王画の左一部が大きく欠損しているもの。
勁永広寛破冠寛(ハ)削尓 【評価 9】
寛冠の右側に切れがあり、尓の跳ねの右側部分に欠損があるもの。
四ツ宝銭の錯笵バラエティー
錯笵とはエラー銭のこと。四ツ宝銭は製作にばらつきがあるので掲示してみました。
面背逆製は砂型に母銭を置くとき、表裏を逆にしてしまったため、面文の型への押し付けが甘く、穿(中央の穴)が面側が狭く、背側が広くなったエラーもの。少ないのですけど、見栄えは最悪です。
面錯笵は型ずれによる重文(文字が二重になる)ものですけど、面側の失敗品は普通なら廃棄されるべきものなのです。この座の混乱ぶりが分かるものだと思います。掲示品は面背ともにずれが認められる珍品です。ス穴は鋳不足によるものや異物混入によるものが多いのですけど、ここまで大きくてかつ、ひげのようなおまけがついたものはみたことがありません。と、いってもたいした価値が付くようなものではありません。
 
広永・面背逆製 勁永・面背錯笵 跳永・ス穴
 
 
元禄期 四ツ宝銭 【細字の類】   
跳永 【評価 10】
細字で可憐な作。俯頭永で永字の打ち込みが強く、永フ画は俯して下側から書きはじめる感じです。銅色は黒茶から赤茶色のものが多く、黄色いものは見当たりません。本銭以下は疑四寶銭異様として古くから銭譜を飾っていたものになります。
跳永(初鋳大様) 【評価 8】
大型のものや製作が良い物は茶色系の色のものが多いでようです。外径23.25㎜ 内径18.7㎜ 重量2.9g
とくに分類はされていませんが、次鋳に該当する小様銭もあります。
俯頭辵 【評価 10】
辵とはしんにょうのこと。頭の部分が急角度で俯します。また寶貝も俯します。逆に永フ画は仰ぐ感じです。見ての通りごく細字です。銅色は黒茶系が多く、赤いものは黄褐色のものは見たことがありません。なお、とくに分類がされていませんが、次鋳銭もあります。
座寛 【評価 9】
寛字の見画が大きく、穿が大きく、狭い銭面に無理やり文字を押し込んだようです。細字で銭径も大小様々ですけど小型のものが多く、この類の最末期のものと思われます。銭文は後に鉄銭(目寛)にも流用されています。銅色は黒っぽいものが多く、黄色や赤いものは確認できません。掲示品は濶縁大様のものです。
 
正徳期 四ツ宝銭 【幻足寛】  
幻足寛 【評価 稀】
数々の試作銭(俗称:四ツ宝御用銭)が残っていますので、正徳期にするのが妥当だと思います。
銭径がひとまわり大きく、寛の足の上部が陰起(凹む)し、拓本に現れないことからこの名称がつけられています。銅色はやや赤黒いものが多いと思います。
幻足寛 【評価 稀】
掲示品は外径24.7㎜を超える初鋳銭。重量は3.7gで製作もいかにも正徳期の美銭。このような発色のものは珍しいと思います。
幻足寛(鋳放) 【評価 珍】
掲示品は外径25.0~26.0㎜もある鋳放銭。欠損部分はあるものの重量は4.6gとまた重厚です。
→ 正徳期御用銭
→ 四ツ寶御用銭
幻足寛(母銭様変造銭) 【評価 珍】
オークションで落札したものですけど、母銭にしては内径が通用銭と同じです。郭内のやすりについては不明ですけど銭そのものは贋造ではありません。母銭仕上げ様の超美銭と考えれば間違いないです。
上掲銭の画像の拡大図
左側はものすごくきれいな細字なので当初は文字の細さも加工されたもの金と思っていたのですが、こうして並べてみると全く自然です。つまりこれはとんでもなくきれいな通用銭に間違いないようなのです。母銭かどうかはわかりませんけど。比較している鋳放銭も25㎜以上ありますが、通用銭です。内径値も通用銭サイズ(19.5㎜前後)ですから・・・。
 
 
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四ツ宝銭類の拡大図
広永
寛目が大きく、永フ画が扁平。ノ画も長い。
勁永
寛目が小さくなり、永フ画が仰ぐ。仰寶である。
勁永広寛
寛目小さく、寛後足が長く郭端すれすれ。永字は昂水で打ち込みの爪が大きい。
幻足寛
銭径、文字とも大きい。細字で寛足の付け根の部分が陰起する。
跳永
永尾が輪に沿って跳ねる。
俯頭辵
細字広穿で可憐な銭。通辵頭が俯す。
座寛
寛目が大きくなる。薄肉で細字、輪幅があり文字は小さい。
 
 
  
称:四ツ宝御用銭類
幻足寛小字
稟議銭と言われます。この品物は新寛永通寶図会の原品でもあります。母銭づくりで姿も大きいのですが通字の形状が幻足寛の通用銭と異なります。

(平成17年銀座コインオークションカタログより)
幻足寛短寶
これも稟議銭と言われ、新寛永通寶図会の原品です。上掲のものに似ているのですが寶貝が短くなります。

(平成17年銀座コインオークションカタログより)
 
  

8.猿江銭の類 元禄期以降 鋳地不明  

この銭も非常に謎が多く、もともと正字だけが四寶銭(四ツ宝銭)に含み分類されていたのを、後に元文期猿江銭として小字、広穿を加えて一群とされた経緯があるようです。その後、宝永期丸屋銭とされたり、享保期猿江、享保期十万坪とされたり、石ノ巻銭との筆法の類似を指摘され同群とされたりと、まさに寛永銭界の家なき子です。
四ツ宝銭とされた理由は定かではありませんが、発掘調査によって元禄期頃の存在が確実になったことで、宝永期にはかなり大量に流通していたのではないかと考えられます。鋳地が確定できないのであえて猿江の名称を復活使用することとします。
書風は文銭に近く素直な筆法ですが、文字の太細があまりありません。銅色は赤褐色のものが多いのですが、四ツ宝銭比べると制作は安定しています。永頭と永フ画が俯し、永く画の打ち込み画が長いのが特徴で、また通字のしんにょうの折れ部分に、小さなかぎ状の折り返し爪があります。この特徴は石ノ巻銭に見られる特徴と同じです。かなり力のある銭座の出であることが推測されます。
 
 
【元禄期 猿江銭】  
正字  【評価 10】
この3種のうち文字が一番大きく、背郭が一番小さくなります。また寛目が細く、寶貝が大きい野も特徴です。なお、寛見画の第2画の末尾が下に突き出るのは猿江銭共通の特徴です。
正字系で大型、狭穿、背広郭のものと、俯頭通と名づけられた稀代の珍品が発見され発表されています。
→ 俯頭通
小字  【評価 10】
正字に比べ文字小さく、短貝寶で、俯頭永ぶりが際立っています。
小字(純白銅母銭) 【評価 3】
こちらは磁性は全くありませんが、ほぼ完ぺきな母銭。これから考えると下の白銅の広穿は母銭から格下げされた通用銭かも知れません。
外径23.7㎜ 内径18.8㎜ 重量4.0g

広穿  【評価 10】
穿が広がるために文字が小さくなります。見極めとしては寛字の幅が郭の幅の内側に完全に納まっている特徴をつかむことがポイント。
広穿(純白銅銭)  【評価 3】
白目銭と同じ色で銅銭ながらかなり強い磁性があります。
郭内の仕上げがありませんので通用タイプですけど、かなり大きいので格下げ母銭であろうと思われます。
外径23.8㎜ 内径19.2㎜ 重さ2.6g

※青譜に猿江銭には白銅の母銭があると書いてありました。ただ、その場合鉄分の多さが気になりますが・・・。
 
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猿江銭類の拡大図
正字
文字大きく、寶貝が大きい。
小字
寶貝が短く小さい。俯頭永。
広穿
狭寛、狭通である。俯頭永。
 
← 大正15年貨幣85号の記事より
三上香哉氏の発表記事中に、正字広郭の拓がありました。同氏は猿江銭=宝永丸屋銭説を唱えられています。(現在は否定されているそうです。)
その冒頭に旧譜にないものとして左拓がありました。拓が歪んでいるのかもしれませんが、末鋳のような感じがしてしまいます。【穴銭入門】によると大様、濶縁、背広郭の母銭であるといいますのでこれは少し違うようです。でも、ありそうでないんでしょうね?私も探してみようと思います。

新寛永泉志より→
濶縁広郭の資料がない・・・と思っていたら、新寛永泉志にしっかりと掲載されていました。現在は日銀蔵品で母子とも一品ものなのでしょうかね?

拓で見るとなんだか焼け伸びみたいです。
短尾寛方冠寶通用銭を発見したⅠ氏が雑銭の会の掲示板に投稿した猿江正字背濶縁広郭の画像(左側)です。なにやら新発見の香りがします。
右側は上が濶縁広郭のもの下は一般のもの(大様のもの)との比較画像。輪左内径側であわせています。郭、内径ともの差が認められます。一方、面側の内径は同じ。この特徴は新寛永泉志の拓と同じです。
 
 
 
 
 
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