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 初心者のための
文銭入門講座 基礎の基礎 
 
【はじめに・・・】
 文銭の愛称で知られる「寛文期亀戸銭」は、寛永通寶を集め始めるコレクターがおそらく最初に手にする品です。加刀による微細な書体変化も多く、「文銭マニア」という研究・収集家集団が存在するように、研究も実に奥深いものがあります。
多くの泉譜の冒頭には文銭が掲載されていて、製作も良く比較的書体も整っているので新寛永の代表銭とされていますが、その実もっとも分類が困難なもの・・・初心者には一番難しいもの・・・であると断言できます。
すなわち、入門銭の位置にありながら「寛永銭収集は難しいと初心者を挫折させる一番の要因」があたかも門番のごとく待ち構えているのです。かくいう私も古銭書の冒頭を飾るこの難解なジャンルで今もときどき迷っており、見分けにある程度の自信がつくまでにかなりの年月を要しました。(実は今でも細分類には不安があります。)その一方で、島屋文という新寛永銭の花形役者もこの類に属していて、一獲千金を夢見るコレクターを強烈に吸い寄せてもいます。
このコーナーは分類困難な「寛文期亀戸銭」の書体を拡大比較することによって、初心者にもわかりやすく解説するものです。したがって従来の泉譜の並びとは若干変更し、書体の特色の違いを勉強します。これを学べば文銭の基本がわかり、かつ、文銭鑑定の基礎ができる鑑定の入門書にしたてあげ、穴銭マニアを増やしたい・・・そんな思いがあります。

※このコーナーは文銭の分類の基礎を学ぶものですので、鋳造過程における個体変化を追求するものではありません。ただし、基礎を学ぶためには結果的に微細な書体差異にも言及することにもなりますので、かなりマニアックな内容にもなりますが、お許しください。
 
寛文期亀戸銭(背文銭) 寛文8年(1668年)江戸葛飾郡亀戸村鋳造 推定
新寛永銭の初出のもので、背に文の一文字を置くことから古銭界では文銭の愛称で親しまれています。背文の字は面の寛字とあわせて寛文の元号を現しているとされています。
新寛永の基本銭とされるだけに極めて癖の少ないきれいな書体です。制作は精緻で重量や直径のばらつきも比較的見られません。直径はおおむね25oを少し超える程度で、新寛永の中ではもっとも大ぶりな類です。銅色は黄褐〜褐色ですが、銭種によっては稀に白銅質のものも見られます。はじめから背に文字のない文銭系と呼ばれるもの、文字が刮去されたもの存在します。


(島屋細縁 平成17年銀座コインオークションカタログより)
 
文銭分類の極意(1)
面の書体より背文の書体に注目しよう!
文銭分類のコツは背を見ること・・・このことに着目した先師はえらい!実は文銭の面文書体と背文の形状には密接な関係があります。
逆説的に言うと、面文だけで分類するのは上級者でも難しい・・・ということ。
なお、文銭は加刀によって微細変化がかなり生じています。とくに背文は面文より多彩な変化があります。それでも背文の特色そのものは残っていますので、背から確認する技術を身に着ける方が上達の早道だと思います。
 
文銭分類の極意(2)
わからないものは後回し!
鋳造品の寛永通寶にはどっちつかずの個体変化がかなり含まれています。たとえば細字と繊字の中間体の細字手などはいまだに私も謎の多い書体です。したがってわからない、ちょっと変だな・・・と感じたものは別に保管しておいてあとでじっくり観察する方が早道。ときにはとんでもない新発見に遭遇する可能性だってあるのです。
 
文銭分類の極意(3)
専門用語などを覚えましょう!
入門講座とうたいながら専門用語のオンパレードになりますので・・・判らない言葉は次のコーナーで調べてください。力量UP間違いなし。
→ 古銭用語の基礎知識

また、時間があったらこのコーナーもどうぞ!新寛永の基礎的な分類です。
→ 逆引き新寛永事典
  
 
1.正字の類
総論
正字は初期の段階の書体だと思われ、銭径も比較的大ぶりのものが見られます。文字には太細が目立ち、それは背文にも見られます。例外はありますが、基本は接点文。そして通字のしんにょうだけが細くなる癖、寛冠の前垂れの癖がポイントです。
寛:前垂れが、力強く太く、垂直気味になります。(先太気味)・・・@
寛:寛尾はほぼ直角に真上に跳ねます。・・・A
永:力強い。永点は比較的伏しがちに寝ています。
通:しんにょうの太細がはっきりしています。なかでも揮部(
B)は特に細くなります。・・・BC
寶:尓の後点が開き、左右アンバランスです。・・・
D
文:基本形は接点文で末尾も力強いのが基本です。(例外あり)・・・
EF
例外の離点文
左:勁文 文字全体が横広で第4画が下から入ります。筆勢も強く堂々としています。
右:狭文 第2画の両端が削られたように短くなります。
※いずれも加刀変化によるものですが、基本的な形や文字の癖は残っています。
 
  
2.細字の類
総論
文字通り細字で文字の太細がなく文字も大きくのびやかです。
寶尓の形状の特徴は絶対的で、これをルーペで確認すること。また、背文は第3画の下部が切れる独特な形状。文字も幅広く巨大です。
寛:前垂れは長く開き気味になります。・・・@
寛:冠全体が反り返る癖が強調されています。・・・A
寛:内側に跳ねます。・・・
B
永:永点がかなり立ち長い。・・・
C
通:横幅が広いため、通頭はかなり大きくなります。・・・
D
寶:尓の横画と縦画がはっきり離れます。細字最大の特徴です。・・・
E
寶;
前足に筆かけがあるため折れ曲がります。・・・F
文:離点文で、第3画の上に第4画が乗るため、第3画の下部がはっきり切れます。・・・
GH
文:
第4画先端はかなり長めです。・・・I
 
 
3.深字の類
総論
深字はもっとも分類が難しい一群で正字と細字の両方の癖を持っています。深字といっても目立って彫りが深いとも言い切れません。そのため、はじめは背文の形状に着目する方が判りやすいかもしれません。なお、深字には太一文(欠画通)というものがあり、こちらは文字が前のめりには見えません。深字が見分けられるようになったら文銭コレクターとしては一人前です。
寛:寛の前垂れはストレートでやや開きます。・・・@
寛:わずかに内側に跳ねる癖があります。・・・A
永:永点がかなり立ち、長く、郭ぎりぎり。・・・
B
通:深字本体銭は通用の末画がしっかり跳ねます・・・
C
寶:正字と同じ癖があります。・・・
D
文:離点文で、点も短めで立ちます。・・・
E
文:第3画の筆始めは中央よりやや前気味。上からほぼ垂直に入ります。・・・F
文:第4画の先端も長く、Fの癖もあって文字がやや前のめりに見えます。・・・G
深字太一文:欠画通
面側の書体はほぼ同じながら背文が異なるものがあります。通用の跳ねの部分が削られているほかに、背文の第2画が目だって太くなります。印象は大きく異なりますが、深字の類であり本体より若干多く存在します。
@面側の特徴は深字とほぼ同じながら、通用の跳ねが削られています。欠画通と呼ばれます。
A背文は横引きがとても太く、太一文と呼ばれます。
 
3−1.深字小文
深字小文は深字と同じ類にされていますが、仰フ永になること、背文が離点文、かつ、かなりの狭文になりますので慣れたらすぐに見分けられるようになります。
寛:深字本体とほぼ同じ。
永:永字のフ画が上から入る癖があり、仰フ永とも呼ばれます。永点も起き上がり長いので永字全体がくねる印象を受けます。・・・
@
文:第2画が短い離点文。文字の太細の癖はあまりありません。・・・A
 
 
4.繊字小文の類
総論
文字通り繊細な極細文字。
輪が面文より額縁状に高くなる額輪という性質もあり、文字がはっきり見えないものが多いのがつらいところ。細字に近似した書体であるため、背文の形状の差にも着目しましょう。
なお、繊字の前駆銭とされる細字手の類は初心者には説明しても判別困難だと思われるますが、参考までに繊字類と一括して掲載しました。
寛:内側に跳ねますが狭文に比べるとやや垂直気味。文字は極細。・・・@
永:永柱はかなり反り返って湾曲し、全体にうねる印象を受けます。・・・A
通:しんにょうの頭が反り返ります。爪があるとされます。・・・
B
寶:寶尓はかなり立派で鋳造による個体差はあるものの細字に近似しています。・・・
C
寶:
かなり斜めになった寶冠。・・・D
輪:額輪と呼ばれ、文字より高くなっています。・・・
E
文:狭文に比べると横引きが少し長い。・・・
F
文:
前足は郭の中央ぐらいまでの長さ。・・・G
 
4−1.細字手流文(参考)
繊字小文の前駆銭と呼ばれるもので、今は市民権を得た形になっていますが、判別はなかなか困難です。
特色は繊字小文の特色を持ちながら
文字がわずかに太く、額輪せず、通頭に爪がないともされますが、癖は残っています。
これの鋳ざらい変化が繊字小文になる・・・と文銭マニアたちは推理しています。鋳造の過程の変化で、繊字のごく初期に出たもの・・・と言っても良いかしら?消去法で探す銭種なので、あまりやっきになって求めるものではありません。
※掲示品は通?の特徴がはっきり出ていない個体ですけど、総合的に見て流文と判断したものです。
寛:ほぼ垂直に跳ねる癖があります・・・@
永:永柱は湾曲してうねりますが、文字が太い分だけ癖が少ない感じ。

通:しんにょうの頭の反身がほとんどありません。繊字小文ほど爪がはっきりしません。・・・A
寶:尓はやはり細字に似ています。・・・
B
輪:はっきりは額輪しませんが、癖は残っていると思います。
文:第3画の先が直線的で長く、ひとまわり大きく感じます。・・・
C
 
4−2.繊字狭文
繊字のもう一つの書体です。やはり細字に似ていますが文字繊細で背文の形状も異なります。繊字の場合は背文の違いはわずかなので、やはり通字の差異を観察するのが早道です。
寛:内側に跳ねるだけでなく後ろ足の底部全体がわずかに湾曲して持ちあがる癖があります。・・・@
永:永柱は湾曲してうねります。・・・
A
通:しんにょうの頭が自然に丸い。・・・
B
寶:斜めになった寶冠。・・・
C
寶:尓はやはり細字に似ています。(母銭で確認済み。)ただし通用銭ではかなり個体差がみられます。・・・D
輪:額輪仕立てになっています。・・・
E
文:小文に比べると横引きがわずかに短く、また第3画、4画の交差位置が気持ち高い。・・・
F
文:第3画は打ち込み位置が前寄りで末端はけっこう短め。・・・G
 
4−3.細字手流文手(参考)
繊字狭文の前駆銭。流文よりさらに判別困難なもの。文字が繊字よりちょっと太く、背文の大きいもの・・・と覚えてください。これも少ないものですけどやっきになって求めるものではないと思います。
寛:繊字狭文と同じ癖で、後足の底部が湾曲します。・・・@
永:やはり文字が太い分だけ癖がない感じです。

通:しんにょうの頭は丸いというか平ら。・・・A
寶:ほとんど繊字狭文と同じ。
輪:やはり額輪しませんが、癖は残っています。
文:足長ではっきり大きい。狭文より堂々としています・・・
C
 
 
5.中字の類
総論
中字の書体はおとなしく、筆勢がありません。内径も少し小さく、そのため文字も縮小して濶縁になります。寛の後足は内側に跳ね、背文はなよなよした離点文。この特徴を覚えましょう。
寛:垂直気味の前垂れですが、力強さがありません。・・・@
寛:かなり内側に跳ねます。・・・A
永:永点はおとなしく寝ています。永柱はくねりません。・・・
B
通:太細が感じられません。一本調子といった風。・・・
C
寶:尓は小さく目立たない。・・・
D
文:離点文になります。また、点はかなり斜めに打たれています。全体的に背文は大きいもののなよなよした印象です。・・・
E
文:第3画が第4画の上に乗ります。そのため第4画先端が途切れるような印象を受けるものがあります。・・・F
文:第2画と第4画の間が空きます。文の文字は全体に背が低く平べったい。・・・G
※面側の文字や内径は正字よりわずかに小さくなります。また、背文も平べったいので面背とも濶縁気味になる傾向にあります。
 
 
6.縮字の類
総論
縮字は中字よりさらに文字が縮小します。それにあわせ輪も太くなり濶縁になるものも多いのですけど、内輪が削られたもの・・・刔輪銭も多く存在します。背文は足長の印象で別名「高文」とも呼ばれます。
寛:末尾は素直に上に跳ねます。・・・@
永:永柱はまっすぐでくねりません。・・・
A
永:永尾はけっこう力強い。・・・B
寶:尓前点ははやや細く縦方向。後点は少し開きます。・・・
C
輪:幅はかなり広い。・・・
D
文:横引きは右上がりで短め。・・・
E
文:
分岐点から下が足長の文。別名「高文」。小さな変化は非常に多い。・・・F
 
 
7.退点文の類
総論
退点文は独特の書体です。肥字とも呼ばれるほど文字が太く、その名の由来の退点文の通り、背の文の第1画がやや右寄りに打たれています。離点文になるものとそうでないものがあり、また背文の形状変化も激しい一類です。
寛:寛字に限らず全体に文字が太く大きい。寛前足が短く郭の内側で止まってしまいます。・・・@
通:通頭が巨大で用画画より右側には見出します。用画は小さくアンバランスです。・・・
A
文:右寄りに打たれています。・・・
B
文:横引きはかなり長い。離点文になるものやそうではないもの、文字の大きさなどにもばらつきがあります。・・・C
 
 
8.島屋文の類
総論
島屋文は良くユ頭通という呼称を聞きますがその特色はあまり目立ちません。むしろ仰通・俯寶の特色となにより文字が大きいことに着目した方が判りやすいと思います。たいていの泉譜の冒頭を飾っている有名品ながら、めったに実物は拝めない珍品です。
寛:寛目が大きくその分低足寛になります・・・@
永:永柱は長くすっきりした印象です。
通:ユ頭通ですが目立ちません。・・・
A
通:
通用がわずかに仰ぎます。・・・B
通:しんにょうの折り返し部分にカギ爪があります。
寶:寶貝が前に傾きます。・・・
C
寶:寶前足先端が後足先端よりかなり下にあります。・・・D
文:接点文になります。・・・
E
文:第2画はかなり短い。ただし、例外的に長いものもあります。(細縁・広文)・・・F
文:文の文字は全体にふんばりが広く平べったい。・・・G
 
 
8−1.島屋文小頭通の類
島屋文と呼ばれるもう一つの代表書体。本体銭より永字が平たく、永尾が流れるのが特色です。もちろん、名前の由来通り通頭が小さいのも特色。さらに背文の第2画が仰ぐのも特徴です。
なお、掲示の品は方泉處により細縁と認定されたもの。実は母銭仕立てであり、内径も銭文も一回り大きい品です。銅質も異なります。
寛:寛目が大きく低足寛気味ですが、本体銭より幾分足長?・・・@
永:永柱は短く永尾は横に流れ平たい印象です。・・・A
通:小さくはっきりしたユ頭通・・・
B
通:
通用が完全に仰ぎます。・・・C
通:しんにょうの折り返し部分にカギ爪があります。
寶:寶貝がわずかに前に傾きます。・・・
D
寶:本体銭ほどではないものの寶前足先端が後足先端よりかなり下にあります。・・・E
文:接点文になります。・・・
F
文:第2画はさらに短くかつ仰ぎます。・・・G
文:文の文字は全体にふんばりが広く平べったい。・・・H
 
 
 
 
 
 
 
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