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【真文の類】
文・寶の字が【文・寶】となります。鋳銭の管轄は銀座で、書体は若年寄の小笠原長道が担当したそうです。文久永寶の収集と分類といえばこの真文の類を集めることに他ならず、とにかく変化が多いのが特徴です。真文の母銭は極めて存在が稀です。おそらく充分な数が作られず、その母銭を加刀修正しながら鋳造が続けられたのではないでしょうか?
書体・制作から 【深字系】 【直永系】 【楷書系】 の3系統があり 深字系はさらに 【深字狭永類】 と 【深字広永類】 に、直永系は 【直永類】 【細字・繊字類】 などに分けられます。 分類では 【深字広永類】 から派生したものとして 【深字手類】 を独立させましたが、深字広永との区分にあいまいなところがあり、研究の余地が残ると思います。【楷書系】 は真文の代名詞的な存在で、一般的には真文と言えば楷書のことを指し示します。
 
【深字系:狭永類】
深字系の名前通り彫りが深く、肉厚も充分であり、文字が地から鋭く立ち上がります。狭永類は永頭がやや短く、永フ郭は郭から離れ小さくなります。久字の形状などから 【狭久】 【勁久】 【降久】 の3種類に分類され、それぞれに削字変化があります。
狭久             【評価 3】
深字狭永の本体とされるもの。永頭が短く、永フ画は郭から離れます。狭久は久字の足の踏ん張りが狭く、初画の爪が目立たないため文字が直線的に見えます。なお、狭久の名称は分類のため私が名づけた仮の名称です。一般的には深字狭永(本体)です。存在はかなり少ないようです。刔輪削字による変化があります。
勁久          【評価 5】
狭永で類品中最もフ画が短くなり、やや仰フ永気味になります。久字の踏ん張りが広く、足も長く最終画が跳ね上がる感じがあります。刔輪、削字による変化が非常に多く見られます。
降久          【評価 3】
やはり狭永ですが、永頭は最も短くなり、フ画ははっきり俯します。久字が内郭から離れ、両足が外輪に軽く接しますが、久字が降っているため足はやや直線的で短くなります。久字の初画が力強く反り返り、しだいに第二画から離れてゆく(口が広がる)癖があります。降久は昔から有名で、文久永寶の珍品として称揚されています。(実際は狭久の方が少ない?)彫りは特に深く、掲示品は母銭の地肌の様子まできれいに伝えています。
降久短尾久       【評価 2】
ネットオークションで最極美品としてでていたもの。落札価格は2万円を超えていたと思いますが、通常の品より少ないタイプなので納得価格?
短頭永、俯フ永、降久ですが、離足久になっています。これはさらに広郭で肥字気味の初出もの?
私は後一歩手が出ませんでした。こういうものを糸目をつけずに落としに行くべきだ・・・と終わったあとで後悔。(画像は無断借用になりますがお許し下さい。落とされた方は確かな目の持ち主です。)
 
 
【深字系:広永類】
深字としてはもっともポピュラーな書体です。永字、永頭の幅が広く、フ画が接郭するのが約束です。また、寶王画が小さく貝画から離れるのもポイントのひとつです。 
広永          【評価 6】
永字の幅が広く、永頭も長くなります。文久永寶分類譜では濶永とされています。深字広永の類は寶王画が狭く小さくなります。一方、深字手は寶王画が大きく、最終画が水平で貝画に接します。銭譜には深字大王寶というものが掲載されておりますが、深字手との差は彫りの深さくらいしか見当たりません。そうなると、深字広永と深字手の差は非常にあいまいになりますので、ここはきっぱり大王寶は深字手、小王寶が深字だとするべきだと思います。
広永俯頭永         【評価 6】
ネットで深字本体とされていましたが、間違えても無理はないと思います。狭永に酷似しますが、永フが郭に密着します。また、永頭と永フ画が急角度で俯し、広永本体より狭永に見えます。寶貝がややしたすぼみになる癖、文尾が跳ね気味になる癖があるといいます。
 
 
【深字系:深字手類】
昔は深字手と言えば、【広久】の類だけでしたが、最近は【短久】もこの類に含めるようで、非常にややこしくなってしまっています。それは深字広永と同じ系統書体ながらやや肉薄で文字深彫りにちょっと足らないものがあるからで、それらをどう扱うかがなかなか定まっていないのです。寛文期亀戸銭の深字がそうであるように、深字という名称がついていても必ずしもすべてがそうだとは限りません。この深字手とされるものが深字広永から派生していることは間違いないので、私は 【深字広永の書体のうち大王寶】 になるものを深字手として扱い、そのなかにたまたま深彫りのものとそうならなかったものが混じっている・・・と、考えることを提案します。 
広久          【評価 8】
寶王画がとても大きく、横引きが水平で貝画に接します。やや彫りは深いものの、深字よりは若干浅めです。ただし、個体差があり深字といって差し支えないものもあるようです。
短久          【評価 8】
浅字のものが多いようですので、短久が本来の深字手なのかもしれません。久字の前足が陰起し短く輪から少し離れます。そのため久字がやや頭でっかちに見えます。さらに久字の足が極端に短いものもあります。
なお、掲示品は深彫りの出来のものです。寶王画もやや狭く変化していて、深字との中間的な存在にも思えますが、最終画が水平に貝画に接していて深字手に分類されることが分かります。
 
 
【直永系:直永類】
非常に少ない銭種でありながら文字変化が激しく、さながら古寛永の御蔵銭のような存在です。直永という名称も非常に苦しく、昭和銭譜では小字とされたようですが、文字はけっして小さくありません。(楷書との比較で小字とされたようです。)
永柱がやや長めで反柱永気味のものが多く、俯頭永で永点が退くものが多いようですが加刀による例外もあります。寶字は細めで輪側に進むものが多いようです。文久永宝分類譜では本体、削字、狭穿、進点永の4系統にさらに分けています。
 
直永(本体)        【評価 3】
これが直永の本体銭といわれるもの。久字の足が長く、気持ちよく開脚しています。永字の柱は長くすっと伸びます。本体は文字がやや太く広郭になります。

(文久永宝分類譜から借拓)
直永(短尾久)      【評価 3】
文久永宝分類譜では本体系に入っていますが、文字細く削字系につながる種類だと思います。短尾久という名称ですが、削尾久といった方が良いかもしれません。短尾久の特徴は、久尾が細く短くなるだけでなく、永頭が強く俯し、寶王が小さくなります。この特徴は削字類と同じです。相澤本には該当銭なし、ボナンザミニ入門では直永狭文になりますが、寶冠の前垂れの特徴(垂冠寶)は一致していません。
狭穿          【評価 3】
永頭が俯し、永字全体に力感があります。狭穿は郭の周辺が削られているのがポイント。相澤本では直永奇永の類だと思います。なるほどフ画が永頭の角に食い込むように近づきます。
狭穿          【評価 3】
2007年の掘り出し物の狭穿。本来は二重表示はさけるべきなのですが、優越感にひたるため掲示させて下さい。上掲品とは永字の形状が微妙に違います。文尾も短い。
進点永         【評価 3】
直永の中の一類で、永点が小さく変化し前に進みます。湾柱永気味で直永の文字の基本からはかなり逸脱していて、細字類としても良いと思いますが、昔から直永として扱われています。その他の特徴として文前足の反り身が強く郭にほとんど接するようになること、永フ画が水平なこと、寶前足が跳ねるように輪に向かって横に伸びることなどがあります。進点永の類は直永類の中でも少ない存在です。
 
 
【直永系:細字・繊字類】
細字類は文字が全体的に細くなり永字が湾柱永気味に変化しています。直永手の名称を持つように、直永からの変化だと思われ、変化が非常に多い銭貨です。繊字はさらに文字が細くなり、浅字で濶縁になるものが多いようです。
細字          【評価 10】
本体銭にはやや文字の太いものが充てられます。本銭などはやや彫りが深いので、ちょっと迷ってしまうもの。この気持ちよい久字の足の広がりを覚えましょう。とても足長です。寶字は直永と異なりあまり仰がず、離郭もしません。またこの類は総じて湾柱永気味になります。
細字離足寶         【評価 3】
文久銭には他にも離足寶はありますが、これは別格の珍銭です。文字がやや細く、郭の周囲が削られているのも条件ですが、最大の特徴は寶後足がぽつんと離れて下のほうに位置することです。
(文久永宝分類譜から借拓)
細字長寶          【評価 3】
こうして並べてみると直永に書体は近似していて、文字が細くなっている事が良く判ります。長寶は細字系の難獲品のひとつで、寶貝が加刀により仰ぐようになり、寶足が長く下に伸びます。寶字が枯れた感じの書体で、細字系の中で異彩を放っています。細字長寶は独立した種類であるという説もあるようです。
※寶字が離郭する点、濶縁にならない点が直永に近いと思います。上掲の直永短尾久と比較してみて下さい。
細字垂足寶       【評価 10】
穴銭を少しかじっていると垂足寶と聞くと、永楽銭の少し少ないものを思い出し拾ってしまうもの。文久では雑銭ですが・・・。濶縁縮字で文字はかなり細く繊字への移行過程であることが判ります。
繊字(離足寶)     【評価 10】
浅字で文字が繊細になります。久字の爪も鋭くかぎ状になります。濶縁縮字で刔輪、削字変化が多く見られます。
 
 
【広穿楷書類】
真文といえば通常この広穿楷書類を示します。(一般的には楷書と呼ばれます。)とにかくすっきりした書体で制作も安定しています。直永の名称が苦しいのもこいつが存在するからでしょう。直永より直柱永ですし、長永ですし・・・。ですから広穿の特徴を名称に付け加えて見ました。存在は非常に多く変化もほとんどありませんが 【背高波】 と 【背低波】 に大別されます。 
背高波            【評価 10】
背の横波に角度が急で、波でつくる三角形の面積が大きくなります。
背低波         【評価 10】
背の郭横波の角度が緩やかになります。広郭になるのも特徴です。
 
 
 
密鋳 背低波写赤銅   【評価 3】
純赤色の鋳写し銭。東北の産だと思われます。美しいものを探し求めていてようやく出会えました。
内径も縮小していてまさに芸術的な鋳写銭です。
密鋳 繊字写赤銅    【評価 4】
あまり上作とは言えませんが、これも立派な密鋳銭です。かなり縮小しています。寛永4文銭に類品がありそうな雰囲気です。
密鋳 玉寶写赤銅    【評価 4】
こいつもかなりの縮小銭です。状態は劣りますが焼け銭ではありません。こんなものを喜ぶなんて古銭収集家って本当に変です。
 
もっと詳しく分類研究したい方は

文久永寶分類譜
小林茂之 編著 細道の会(編集) 天保堂(発行) 分類文献としては最も良い教科書でしょう。入手は難しいかもしれませんが・・・。

文久泉譜
相澤平佶著 巌南堂書店発行
文久銭分類の名著で相澤本の名前で有名です。名著なのですが若干分類が判りづらいのが難。

ボナンザミニ入門① 文久永寶 昭和49年発行
64ページのミニ本ですが、文久永寶の基礎銭種が分類ポイントとともに解説されています。相澤本との比較もありGood!絶版本なのですが、私は偶然デッドストックを見つけて入手できました。
その他に・・・穴銭堂が発行していた月刊銭貨に
文久永寶分類抄(1979年9月から1981年1月までの間15回の連載:会瀬浜太郎著)があります。
 
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