文久永寶の細道★美星倶楽部★
 
【美星倶楽部へようこそ!】
2013年10月、神奈川県のとあるコレクターH氏からメールが届きました。
『20歳のころから約35年間、古銭の収集をいたしておりました。今、手元に残っているのは、文久銭=深字35枚・直永30枚を含む文久永寶約580枚ほどです。すでに収集から離れて20年近くが経ち、年齢的にも身辺整理を徐々に行っている昨今ですが、収集品を単に処分するのは忍び難くどうしたものかと考えておりました。インターネットで浩泉丸氏の“新寛永通寶分類譜”等を見るにつけ、常々感服いたしておりましたが、“文久永寶の細道”のページもあり、小生の収集品など、とても眼鏡にかなうようなものではないかとは思いますが、若干変わっている品もあり、細道に加えていただければと思い突然の失礼を顧みずメールいたした次第です。』
それからしばらくしてダンボール箱3箱に及ぶ貴重な資料と、H氏が青春をかけて集め楽しんだ文久銭コレクションが届きました。無償提供でした。このコーナーはH氏の青春の日々思いが詰まったこれらのコレクションを編集して公開するものです。文久銭の変化は古寛永御蔵銭のごとく、微細変化まで追いかけたらきりがありませんので、文久永寶分類譜(小林茂之著)を基本にピックアップして展開します。
(撮影しながらの編集なので多少時間がかかりますがご容赦ください。)

 

【直永系】

【直永系:直永類】
直永系の中で、寶字が進み輪側に進むものは直永の本体系のグループです。
直永は深字と並び文久永寶の中では珍品の部類に属します。昭和泉譜では小字とされましたが、楷書との比較でそうなっただけのようです。直永の名前もけっして的を射た名称ではないものの、さりとてこれに代わる名前は見つかっていません。永柱がやや長めで反柱永気味のものが多く、俯頭永で永点が退くものが多いようですが加刀による例外もあります。文久永宝分類譜では本体、削字、狭穿、進点永の4系統にさらに分けていますが、加刀による微細変化が多く、完全一致する品を見つけるのは至難の業でしょう。
したがって無理に細かく泉譜合わせをせず、素直に銭文を観察し、大きな特徴を拾っていった方が良いかと思います。
 
直永類の中分類
1)直永:肥字を本体とし、広郭になるものが本体です。永柱は垂直で長く、反り返る印象のもの。
2)削字:文字が削られて角々しく細く変化したもの。
3)狭穿:郭の周囲が削られ、狭穿に変化しています。気持ち仰柱永気味に変化しています。
4)進点永:永点が進むもの。湾柱永気味のものが多い。

永字は確かに特徴ながら例外もあります。その昔、文久童氏が寶寄輪と名付けていたように寶字が大きくやや進む癖を目印にするのが良いと思います。
直永(直永広郭)     (評価 4)
通称、直永本体ですけど、文字への加刀が少なく、肥字で広郭になる点が目立つので直永広郭としたほうが判りやすいと思います。背は彫りが深くしっかりしています。
この反柱永気味の形を覚えるのが文久永寶分類の第一歩です。直永は寶字が大きく長く、輪方向に進む癖があります。なかなかの希少銭です。
直永痩久        (評価 4)
広穿細郭に変化しています。全体に肥字ながら久字の周囲が激しく削字されており久字の足は細く、後足は直線的です。削字系にしても良いのですが、久字以外は太いので本体系にされているようです。文久永寶分類譜の解説・拓には背郭右下の波に2ヶ所鋳切れがあるように記述がありますが本品にはその特徴は見られません。削郭というより本品は広穿になっている点も泉譜とは異なっています。
直永細字俯フ永(削字降点尓)(評価 2)
寶冠が跳ねない、寶尓の前点が下がる、永末尾が離輪するなどの特徴が泉譜と一致していおり、分類名は直永削字降点尓でも良いと思うのですが、原品はあまりに雄大な作で、広郭で直接的な削字痕跡も見えず、これぞ直永本体の細字ではないかと思うくらい立派です。したがって本体系の細字俯フ永ととりあえずしておきます。
直永削字         (評価 4)
そもそも文久永寶は加刀による削字が当たり前で、変化も激しいので、その名称はどうかとも思うのですが、全体が加刀され総体に細字になるもの・書体が崩れて変化したもの等を削字としたようです。
ギスギスした粗い雰囲気がいかにも削字です。
直永削字浮冠寶    (評価 4)
この類は削字変化がさらに進み、永柱はやや仰ぎ気味で直永らしからず、永点も横倒し気味で大きく見えます。また久字は前足が反り文字全体がふんぞり返る印象を受けます。拓本で見ると背波の最上段が横一直線上になる癖があるようです。また、寶冠が完全に浮いて離れるほか、寶前足がちょんと跳ねる癖があります。
直永削字浮冠寶・離郭 (評価 4)
浮冠寶の小変化ですが、郭の周囲が削られています。文字の足の位置を見て比べると良いでしょう。なお、本個体は背波がごく細く、湾曲が激しく直永手細字の類に非常に近くなっています。このように文久は個体ごとの差が激しく、古寛永御蔵銭なみに変化します。
直永狭穿       (評価 4)
本体と同じ系統の書体ながら郭の大きさの違いが顕著で、全体に小郭になっています。わずかに刔輪はされていますが、個体差が大きいようです。
文久永寶は変化が多様であり中間体も多いということでしょう。
直永狭穿短足寶    (評価 4)
寶前足が短く変化しており前足が丸く短いもの。郭はさらに削られ文字はもっとも離郭します。とくに寶字が郭から離れ進むように見えます。
上図に比べると久字の前足の反りが強く、踏ん張りが幅広く変化して見えます。

直永進点永      (評価 3)
この類は永点が削られ丸く小さくなっています。また寶前足があがり、輪に向かってまっすぐ向かう癖が共通です。
進点永類は直永の中で最も少ない種類です。
なお、掲示品は永頭に加刀され急角度に俯す短頭永に変化しています。
直永進点永短尾永(仰フ永)(評価 3)
短尾永の特徴は永フ画がやや仰フ永気味になること。永尾は輪から離れ短くなります。
 
【直永系:細字小貝寶類】
このような分類名称は本来はありません。直永系を細分類をしていて便宜上、私が名づけたグループです。やや細字で寶字が正立し、小貝寶に見えます。

直永に似ているものの細字で寶字の形状が明らかに異なります。
細字         (評価 10)
直永に似た書体ですが、寶字の位置が進まずこじんまりしています。細字類の中では文字が太い方です。基本銭であり、直永とは異なり雑銭です。
細字瑕寶       (評価 7)
寶王の中央画の前半が失われている変化。小さな変化ながらちょっと少ないようです。

この瑕寶の変化は真文系のいろいろな書体に見られ、目立ちませんがちょっと少ない変化です。
細字狭頭久(大ぶり銭)(評価 4)
狭頭久はさらに細字になる傾向にあります。
文久永寶分類譜では狭頭久を一類としていますが、肉眼で見ても、拓本で確認してもほとんど差が見えません。ルーペで見ると久字第一画の前が削られて溝になっているのが確認できる程度です。なお、掲示銭は面背にやすり目が走る肉厚のつくり。未使用なら恩賜手とされるものでしょうか?非常に大型で、27.65㎜の外径をほこります。(最大径は27.7㎜)

【直永系:細字垂足寶類】
寶字の後足が垂れる一類です。そのため寶字が少し長く仰いで進むように見えます。文字の特徴からしてこれこそ直永手というべき書体なのかもしれません。

こちらは寶字が仰いでいる分、さらに直永に似ていますが、微妙に形状が異なります。寶前足が輪に向かって伸びないのと、郭からの離れ方が今一つな点、細字である点が異なります。
細字垂足寶     (評価 10)
寶後足がやや縦向きで、寶貝も長く変化しています。寶冠が仰ぐのも特徴です。雰囲気的に直永に似てきています。


細字離足寶         (評価 1)
※文久永寶分類譜より借拓
寶冠は水平。寶後足が貝画から離れて打たれています。郭の周囲は削られており文字は離郭しています。文久永寶分類譜では本体系とされていますが、拡大拓図で見る限り寶貝が長いため、とりあえず比較用にこの位置におきました。位は5位ですが、それ以上に存在は少ないかもしれません。
細字跛寶刔輪     (評価 8)
寶後足が短めで進むため、寶目が退くように見え、寶字が屈曲するように見えます。
この類は刔輪するのが普通で、文字が離輪します。
また、フ画の上辺が反る癖があります。
※画像では寶前足が短く見えますが実際は後ろ際の方が短くなっています。(下の拓本参照。)
細字跛寶       (評価 1)
※文久永寶分類譜より借拓
上図の刔輪されていないもの。文久永寶分類譜で通用銭1位の大珍品です。
※印刷物のためなのか縮尺にかなり狂いがあるような気がします。
細字長寶 ※浩泉丸蔵品  (評価 3)
細字の中ではかなり特徴のある品です。寶貝細く、長く寶字全体が進んで仰ぎます。背も深く、直永に近い雰囲気です。
※長寶は垂足寶とは全くの別種であるという説があるようで、文久永宝遊泉記の唐松堂氏の送ってきてくださった資料においても、九州の坂井氏がそれを唱え賛同するとありました。
細字長寶狭冠寶    (評価 3)
見ての通り、久と寶の雰囲気があまりに細字長寶と異なったため、掲載をためらってしまったもの。
ご意見を頂戴した結果、3枚目の発見認定となりました。
寶冠狭い特徴の他、永フ上がり、久の打ち込み短く狭い特徴があります。

 
【直永系:繊字類】
細字削字というべき存在です。文字は極細です。

文字の細さとともに、筆始めの鋭さが特徴。とくに久字の筆始めはカギ爪状に折れ曲がります。寶字はやや俯し気味です。
繊字        (評価 10)
文字さらに細く郭も削られます。そのため文字の筆始めや末端が鋭くなります。
細字との区別は久字の第一画の爪がポイントです。


繊字(背大錯笵)   (評価 1)
文久永寶には錯笵銭が多いと思うのですけど、ここまでのものは滅多にないと思います。背三輪写りという大変珍しい錯笵ですが、製作に矛盾はありません。
※この手のものは通用銭を写した贋作が考えられますが、内径は上の通用銭と同じなので問題なし。母銭から写した贋作も考えられますが、文久の真文の繊字母銭は狭貝寶細郭の一種しか発見されていないようです。

繊字離足寶      (評価 10)
寶貝の幅が少し広く、後足がわずかに離れているぐらいの書体違いですが、見ての通り立派な製作のものが多く見られるそうで、あるいは繊字の初出のものかもしれません。
    

繊字瑕寶       (評価 7)
寶王画の中画が欠損している物。このタイプの変化は色々な書体に見られます。

繊字無爪文      (評価 7)
文の第3画の筆掛けが削られてほぼ真上から入画している物。この類、文の第一画が少し小さくなるのが普通です。


 
【深字系】

深字の系統は深字(狭永・広永)と深字手に大別できます。
【深字狭永】
永字の幅が狭く、永字のフ画、末画が郭、輪から離れるもの(軽く接する程度)がほとんどです。
久字の形状によって3種に大別でき、第一画と第二画の前足が平行にかつストレート気味に伸びる本体(私はこれを狭久と呼んでいます。)と久字のすそのが力強く幅広く広がる勁久、久字が下がる降久があります。
深字狭永(本体)   (評価 3)
通称深字本体。永頭短く、フ画は郭から離れるかわずかに接する程度。久の足はストレート・・・直線的で久頭初画は前足とほぼ平行に走り、あまり開きません。文の横引きはやや伏し気味最終画に接します。ほとんどの銭譜はこれを本体とします。私はこの書体を「狭久」と称しています。本体銭は5位とされていますが実際はもっと少ないように感じます。
深字刔輪(短尾久)  (評価 3)
ほんのわずかですが刔輪して文字が離輪します。輪も磨輪されていることが多いようですが個体差があるようです。永柱わずかに細くなる癖があります。
※光源の位置の違いでかなり印象が異なります。すなわち上図は光源が下からであり、本図は光源を上からにしてみました。光源が下からだと久字が幅広く接輪しているように影が映るからです。わずかな差ですがこの違いは大きいので修正しています。
深字勁久(濶縁)  (評価 4)
久字のすそ野の広がりが広く、久の口も開く印象。文の字は狭永本体系は前のめりに俯し気味ですが、勁久系は仰ぐ印象があり、第2画と末画が離れます。勁永の本体とされるものは位3位とかなり少ないようです。この類は小変化がとにかく多い。本品は濶縁の品で本体系には間違いないのですが、本体そのものであるとは言い切れないと思います。深字狭永に比べると少し彫りは浅い印象です。
深字勁久(刔輪)   (評価 5)
わずかに刔輪され久字足が輪から離れるとともに、文字全体が細くすっきりとしています。この類は微細な変化が多く、分類譜に完全合致させることは難しいと思います。
勁永は仰フ永気味になるものが多くみられます。

深字降久       (評価 4)
文字通り深字で、久字が低い位置にあるもの。製作の良いものが多いようで、文久銭では古来からもっとも有名なものの一つです。永頭が短く、フ画が俯すのも特徴です。

【深字広永】
狭永とは異なり、永の横幅が広く、永頭も長いもの。フ画は郭に密着します。次に掲げる深字手と非常に近似していますが、寶王画が小さく王の最終画は貝画の上にあるのが普通ですが例外もあります。
 
深字広永(細字)   (評価 6)
文久永寶分類譜では深字濶永としています。永字の幅広く、フ画は郭に密着し、永頭も長いのが特徴です。分類的には本体とされるものですが文字が細く、永フ画の筆始めは郭からはっきり離れています。個人的には以下のものが本体に近いように感じます。

深字広永(勁文反玉寶)(評価 6)
深彫り肥字で文字力強く立派な作。永フ画は郭に密着します。寶王が大きく尓の前点と接するもの。作風書体から見てかなり初期に近いタイプのような気がします。

深字広永(俯尓異永) (評価 6)
尓の第二画が俯すタイプ。永フ画がおそらく鋳乱れによって偶然に千木永状になっています。細字になっていますが深彫でなかなか立派な作です。

深字広永(勁永長点文)(評価 6)
分類の上では勁永になりますが、拡大画像でも判りづらい変化。永頭の爪が大きいため長頭永に見えます。ノ爪も大きい。それより文の点が長く輪に接する特徴の方が判りやすいと思うので、あえて長点文の名称を付けました。

深字広永(俯尓刔尾久)(評価 6)
さらに寶王が小さくなっています。また久尾の末画が加刀され輪から離れています。本品は文の横引き爪が目立っています。非常に深字手に似ている書風ながら、深字であり、寶王が小さくなっています。

深字手 深字広永(大玉寶) 深字広永には大玉寶になるものがあり、深字手との分類に悩みます。一般に・・・

①深字手は寶王が大きく
②王最終画が貝画上辺に真横から接する癖があります。
さらに・・・
③寶珎とウ冠との隙間が大きく
④久の踏ん張りがわずかに広い癖があります
もちろん・・・
⑤深字より深字手は浅字です。
深字手俯尓      (評価 8)
深字広永とほぼ同じ書体で浅字のつくり。寶王が大きくウ冠が浮いている感じです。

深字手俯尓長永    (評価 7)
深字手俯尓とほぼ同じですが、永柱の下部が丸まらずまっすぐ伸び長いもの。柱の先端は郭の下辺に届かんばかりです。微細変化ですけどちょっと少なめ。

 
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