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14.元文期 十万坪銭の類 元文元年(1736年) 江戸深川十万坪村 鋳造推定 
元文期のインフレ期にあわせ、色々な銭貨が割り当てられている。そのうち背十、輪十などの類は確実にこの銭籍にあると思われますが、元文4年から鉄銭に切り替えられた・・・という記録から見て、銭種がバラエティすぎることが気になります。ただし、この類に当てはめられた銭貨の書体はいずれも元文期を代表する虎の尾寛系の書体です。

書体などにより背十、輪十、含二水永、虎の尾寛、虎の尾寛小字に分類されます。
 
 
【元文期 十万坪銭 背十の類】 
背十 【評価 2】
すべて母銭式で、見本銭程度に終わったものと思わていますが、存在数が意外に多いのであるいは・・・というところ。内郭に仕上げがあるものを見ないとされていますが、画像の品には普通にやすり仕上げがあります。
※鉄銭の母銭というイメージがあります。銅色や制作から元文期とは違う感じがしますし、鉄銭のための試作品のような気がします。ただし、根拠はありません。
 
 
【元文期 十万坪銭 輪十の類】 【鉄銭あり →鉄銭の部】 
輪十鋳込 【評価 8】
輪に丸に十字の鋳込みがあります。母銭から鋳込まれているので形状は一定で、十字は小さい。永字左右の画の食い違いが激しくなります。この類は長爪寛、虎の尾寛の同じ書体です。
輪十後打 【評価 9】
輪に十字の印が打ちつけられています。十字は母銭の段階でそれぞれ打たれているので、印の大きさや十字の方向はまちまちですけ後打といっても母銭段階の打印後の鋳造品ですから、輪などの歪みは生じていません。場替の贋造品はその点で見分けられます。
輪十後打(含白銅質) 【評価 8】
元文期十万坪銭は通常、茶褐色〜黒褐色のものが多いのですけど、金属配合の関係から白銅質のものも存在します。磁石にすいつくことから鉄分が多量に含まれていることが分かります。私は純白のものをまだ見たことがありませんが、きっとどこかにあるはずです。
輪十後打(削永 【評価 8】
十万坪銭は文字の切れや鋳だまり、鋳不足によ変化が多く見られます。削永は永フ画先端が切れるもの。
輪十後打(寛寄り 【評価 6】
刻印は手作業によるものらしく、場所が一定しなません。掲示品は刻印が寛字側に偏ったもの。もう少し偏ると場替わり銭となり希少度・評価が格段に上がります。
輪十後打(通頭横 【評価 3】
非常に微妙、場替わりとすべきか迷います。少ないのは言うまでもありませんが、評価はさほど高くできないと思います。手作りですからこんなものも出てくるという見本です。探すと見つからないですよ。
輪十後打(通横 【評価 2】
刻印が通頭脇に完全になっています。ここまで来ると場替の名前が使えます。いわゆるエラー銭です。評価以上に少なく滅多に見られない珍銭です。
→ 特別展示室
輪十後打(通下 【評価 1】
刻印が通下になったもの。ここまで偏るとエラー銭であることがはっきりします。評価以上に存在は少なく、入札などでは評価ランクが上昇してしまうことが多くみられますが、目立たないので雑銭から拾えることもあります。偽造銭は通用銭に直接打印してあるため、銭体に歪みや打ち傷があるので注意しましょう。
→ 刻印銭の輪十(上棟銭)
輪十後打(寛上 【評価 少】
寶上打とすべきか?寶上は市場に滅多に顔を出しません。また、贋作も実に多いのです。この品物は平成19年6月の駿河出品物です。ひょっとすると図会の原品かもしれません。
輪十後打(寶上 【評価 少】
寶上、寶下の場替は少ない。
輪十後打(二ツ打 【評価 稀】
古くは双十と呼称されたもので、非常に珍しく、評価はワンランク上かもしれません。2ツ打にも場替わりがありますが、滅多に目にすることもない大珍品です。
輪十後打(二ツ打場替 【評価 珍】
滅多に目にすることもない大珍品の輪十二ツ打の場替、通上寶下打ち。図会においての評価はなぜか通常の場替の方が高いのです。
無印 【評価 10】
上記の無印銭です。永字のフ画、く画の食い違いが大きい。寛爪は大きく、寛尾はうねりますがあまり高く跳ねません。
→ 類似書体の分類 
無印(白銅銭 【評価 4】
無印銭にはかなり色白のものがあります。掲示品はほぼ純白に近い色調のものです。評価はそれほど高くないものの存在は非常に少ないものです。
無印(離爪寛 【評価 8】
寛爪が見画から切断されるもの。輪十にも同じ変化があります。
無印白銅銭(離爪寛 【評価 4】
離爪寛にも白銅銭が存在します。非常に少ない。
無印(通上爪紋 【評価 9】
通上に爪紋があるもの。十万坪銭にはこのような鋳だまりによる変化が非常に多く見られます。母銭からの変化で兄弟銭も多く鋳工のシークレットマークの可能性もあります。ただしあくまでも鋳だまり変化であるので新種として大騒ぎするようなものではないと思う。存在は比較的多い。
 
輪十場替 贋作銭
無印は雑銭なので場替の贋作は多いと思います。
正規のものは刻印後打といっても、出来上がった通用銭に直接刻印を打つのではなく、母銭の段階で刻印を打ち、輪の歪みなどを修正した後で鋳造を行いますが、贋作銭は通用銭に直接刻印を打つため必ず銭体に歪みや打傷が生じています。また、正規のものは流通していますので、刻印の凸面は角張らず滑らかになっています。一方で刻印の谷の部分は流通の間に汚れや埃が付着し、銭体の地の色と同じに染まっているはずです。新しく刻印を打ったものは当然のことながらこの点も不自然になりやすいのです。ただし、贋作者はあらゆる手法をつかってこれらを隠そうとします。

上段のものは私もかなり迷いましたが、刻印の形状と面背の不自然なやすり目からNGとしました。銭体の歪みはほとんど感じられないのですが、ガラス板上に置くとかすかな歪みが見つかりました。刻印部分はざらついてやや角張り、刻印の形状も少し違います。
下段のものは刻印横の輪側面に砥石による修正が見られます。また背面は砥石で修正したようですが、修正し切れていません。また、刻印を打ちやすくするためか銭に焼きを入れています。刻印形状は浅く扁平です。
鑑定ポイント
@銭体、特に輪側と輪背面が歪んでいないか? → 打圧による変形とその修正痕跡を見る。
A輪横の丸みは自然なものか? → 修正による変形、未修正による歪み、不自然な修正痕はないか?
B刻印形状に不自然さはないか? → 全体の形、凹部分の色と形状、刻印の凸部は滑らかか?新しい傷はないか?
Cごまかしのやすり目、加工のための焼き、着色が入っていないか?
D銭径(内径)が縮んでいないか? → 鋳写し贋造を排除。

なお、この刻印銅銭はネット出品者からまとめて4枚購入したうちの2枚です。譲って戴いた方は正直な方でしたので、贋作の可能性を承知で購入に踏み切りました。馬鹿かもしれませんが、最近贋作の可能性があっても勉強のため購入することがあります。馬鹿ですね、馬鹿・・・、はい・・・。
※ちなみに銅銭以外に鉄銭も購入しましたが、こちらは全部セーフです。鉄銭の贋作はほとんどないと思いますが、私は贋作の疑いの強い(刻印が不自然な)輪十の鉄銭を持っています。
なお、真贋の判断は欲を捨てることに尽きます。欲しいものにとびついたり、自分の持っているものが贋作であって欲しくない思いがあるようではだめですね。私はまだまだだめですが・・・。
 
含二水永 虎の尾寛 について
いずれも元文期の代表的な書体ですが、十万坪銭とされた根拠が傍証のみなどでやや薄弱です。含二水永については輪十の刻印銭がわずかに一品だけ出現しているだけです。ただ、佐渡銭にも同じ書体が存在するため、比較的中央に近い炉において大量鋳造されたものである・・・とは推定できます。虎の尾寛については小川譜では平野新田銭に編入されているなど、かなり混乱しています。このうち虎の尾寛の本体については鉄銭の存在がありません。また、銅色変化が激しく、存在量の多さから比較的長い期間鋳造された可能性もあります。いずれにしても非常に謎の多い銭貨です。 
 
 
【元文期 十万坪銭 含二水永の類】  【鉄銭あり →鉄銭の部】
含二水永 【評価 10】
永字の頭が右側に突き出す独特の書体。長爪寛、虎の尾寛ぶりも非常に目立ちます。元文期佐渡銭含二水永の書体と全く同じなのですが、鋳肌はきめ細かく輪側のやすりがけも強くありません。磁性の有無や、鋳肌、やすり目、銅質など総合的に判断する必要があります。
→ 類似書体の分類 
含二水永瑕永 【評価 8】
永柱が鋳切れて永頭と分離するもの。印象的には陰起文のような雰囲気です。掲示品は銭径の小さい次鋳銭です。白銅銭があるというのですけど私はまだ実見の機会がありません。
【元文期 十万坪銭 虎の尾寛の類】 
虎の尾寛 【評価 10】
永尾が特に長く跳ねることから虎の尾寛と呼称されています。元文期から寛保期にかけての代表書体です。
→ 類似書体の分類 
虎の尾寛(赤銅銭) 【評価 9】
虎の尾寛には銅替わりが多く、純赤のものも散見されます。
虎の尾寛(白銅銭) 【評価 4】
虎の尾寛には白銅質のものも見られますが、これは非常に少ないと思います。
 
 
【元文期 十万坪銭 虎の尾寛小字の類】 【鉄銭あり →鉄銭の部】
虎の尾寛小字 【評価 10】
文字全体が細く、小さくなります。存在は非常に多い。
虎の尾寛小字白銅銭 【評価 7】
純白に近いものならば2〜3ランクくらい評価アップできまず。赤銅質のものも存在するそうですけど、密鋳銭や火中変色でない赤銅質のものは私は未見。
虎の尾寛小字(初鋳厚肉) 【評価 ?】
かなり白銅質で、手にして違和感がある大様銭。肉厚1.7o、銭重は5.2gもあります。面側の鋳肌も通常銭と少し異なりきめ細かい感じはあるものの、背や仕上げは一般銭のレベルです。母銭のできそこないというより初鋳大様銭で良いと思います。
虎の尾寛小字(赤銅銭) 【評価 9】
こんなものもあるという程度で考えましょう。
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十万坪銭類の拡大図
背十 輪十鋳込 輪十後打  → 類似書体の分類 
含二水永 虎の尾寛 虎の尾寛小字
 
 
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