戻る     進む  
密鋳銅一文の観察箱
江刺 異書斜寶写
    
 
密鋳一文銅銭はありそうで意外と見つからないものです。加護山銭のように藩主導によって比較的大規模に鋳造されたものもありましたが、多くが零細な家内産業であり、収入に比べてのリスクの多さと原料調達の難しさ、採算性の悪さから、密鋳はもっぱら4文銭か天保銭もしくは鉄銭が主流になっており、銅一文銭はかなり少ない存在です。
一方で、決済用の少額貨幣は常に不足している状況でしたので、密鋳一文銅銭の需要は確実にあったと思われます。
このコーナーはそんな日の当たらない密鋳一文銅銭と、密鋳用に改造された一文銭類をランダムに展示していこうと思います。
   
 
加護山銭 細字様嵌郭

藩がかかわったと有名な密鋳銭。ただし、一文銭は明治期に3年間ほどつくられただけのようです。背文刮去して郭を補強するために増郭した母銭からつくられていますが、ここまではっきりしているのはとても珍しいと思います。銅色が赤黒いものが多いのは鉛成分の多い阿仁銅山特有の特徴です。
加護山銭 細字様嵌郭(母銭)

2018年12月のオークションネットで2万円未満で落札した品。細字の鋳写し改造母銭で背に鋳だまりはあるものの穿内仕上げもしっかりあり加護山の母に間違いないと思います。細字狭文写母と製作の雰囲気を比べてみればわかると思います。
加護山 細字様長点尓濶縁

こちらは輪幅が広くなっているだけでなく、尓の後点が長く変化してます。嵌郭されていることは背を見る限りは明らかですけど、この程度では嵌郭とは言えないと思います。
加護山銭 細字様次鋳

外径22㎜台とかなり小さい。内径も19㎜を切っています。郭内はやすりがきつめに掛けられており、嵌郭にはなっていません。
加護山細字様(含鉛銭)

なんてことない加護山細字様ですけど英泉還暦記念泉譜原品です。鉛分の含有率が高そうで、重量は4.2gほどあります。状態は芳しくないのですが英泉こと村上英太郎師はこれを大真面目に愛していたようです。
加護山中字様

書体から判断して中字様としました。購入した際も中字様でした。細字次鋳との区別が難しいので、あまり細分類にこだわるべきではないと思います。内径は19.1㎜ほど。
加護山中字様

北海道と東北の貨幣原品。英泉還暦記念泉譜原品。
加護山銭 正字様

細字背文刮去の写しが一般的ですけど、数は少ないものの正字写しや繊字写しも存在します。
加護山銭 繊字狭文様(新寛永通寶図会原品)

おおぶりの品ということですが、下の品と比べて内径、外径とも大きく見えます。また、郭内にきれいにやすりが入り、外輪も見た目以上に整っていますのでおそらく鋳写改造母銭だと思われます。
加護山銭 繊字狭文様

あまり知られていませんが繊字狭文を写したものも存在します。次鋳もあるということですので探してみて下さい。
評価以上に少ないものです。
加護山銭 繊字狭文様

濶縁の美銭です。内径は上のものと同じ。
加護山銭 藤沢銭写

文銭以外を写した加護山銭。やすり目、砂目、側面の様子などどれをとっても100点満点の加護山密鋳。ここまで完璧なものはそうは見つからないと思います。
加護山銭 元文期亀戸銭狭穿写

新寛永通寶図会・北海道と東北の貨幣・英泉還暦記念泉譜など各泉譜を飾った原品です。ヒビが入っていますが、故村上氏がこよなく愛した逸品です。
加護山銭? 元文期亀戸銭狭穿写

かなり手ずれ感がありますが、銅質と背の砂目から見て加護山銭で良いと思いますが、今一つかなあ。
加護山銭 元文期加島銭細字写

加島の細字を写したもの。文字がしっかり読めるのは素晴らしい。この手のものの鑑定は、砂目と銅質、やすり目が決め手。
加護山銭 元文期小梅銭狭穿背小写

元文期小梅銭を写したもの。背に小の文字が見えます。故、北秋田寛永通宝研究会の菅原氏の元所有品にして研究発表に掲拓された品と思われます。
加護山銭 元文期十万坪無印写

元文期十万坪銭を写したもの。加護山銭はぱっとしない密鋳銭ながら、文銭系以外はものすごく少ない。
加護山錢 藤沢・吉田島銭縮字写背夷縵

密鋳一文銭の中で、縮字写しは飛びぬけて多いと思われます。一方で、本炉銭の次鋳との区別が非常に難しいので、総合的に判断すべきです。これはかなり銭径が大きいのですけど、銅色や砂目から加護山写しと判断しました。
藤沢・吉田島銭縮字写背夷縵

これはあきらかに銅色が加護山系の色のもの。浄法寺なのか加護山なのかは実は正確には判断はできませんけど砂目から加護山から判断しました・・・が、輪のやすり目が違った。
藤沢・吉田島銭縮字写厚肉広郭 赤銅

一見製作が立派で、本炉銭と見間違えてしまいます。しかし銅質や製作はまるで違います。郭はまるで嵌郭されたように広いのが面白い。本当に加護山の嵌郭なのかもしれませんね。
藤沢・吉田島銭縮字写 黄銅質小様背夷縵

さらに銭径縮小が進んでいます。銅質は黄色っぽくあまり赤くありませんが、上の銭に製作はとてもよく似ています。このように背夷縵でざらついているものは良く見かけます。
藤沢・吉田島銭縮字写 背夷縵

背が夷縵になる藤沢・吉田島縮字写はかなり存在します。
四ツ寶銭俯頭辵写 背夷縵

書体は異なりますが製作的には上の品と同じです。このタイプの写しは非常に多い気がします。
藤沢・吉田島銭縮字写薄肉広穿 背錯笵

鐚銭風の写し。ペラペラに薄い。
高津銭細字背元写 赤銅

真赤な鋳写ですけど加護山写しとしたかったのですけど決め手が今一つ。
高津銭細字背元写 赤鐚風背夷縵

いわゆる甲州鐚風の赤鐚。全体が縮小し、なおかつ薄く貧相です。この手のモノは上記の縮字についで多いと思います。
高津銭細字写(赤銅質)

真っ赤な背元銭。このタイプはときどき見かけます。背のずれがなかなか愛らしい。加護山でしょうね。
高津銭細字写(赤銅質)

風貌、砂目などから上の品と同じ炉の出だと判断できます。
小梅手仰寛写赤銅粗肌

ざらざらした赤銅質の写し。かなり薄肉です。あるいは加護山なのかもしれない。
江刺 異書短通斜寶写  

赤茶に見えますが黄色みが強く、やや硬い銅質。表面は泡立つようにざらついていますので江刺としました。穿内鋳放しですが非常に端正な密鋳銭で私のお気に入りの一枚です。
江刺 細字背元写し  

こいつも江刺で良い気がします。穿内鋳放しで、ざらざらした鋳肌で彫りの浅い文字はかろうじて判読できます。
江刺 十万坪無印写し

実に汚い一文銭ですが、ざらざらの鋳肌、鋳放しの穿など江刺の基準に合格!しかし見栄えはしません。
日光銭正字写

手にした瞬間の違和感からあれやこれや調べて、どうも写しのようだと判断したものだったと思います。内径がわずかに小さいのですけど、自信が無くなってきています。
猿江小字写厚肉

赤肉の肉厚銭。実物はもっと赤い感じ。浄法寺様だと記していました。厚み、大きさ、などいかにも写しという感じ。ただし、ヒビ入りでとても汚い。ネットで100円ぐらいで拾ったと思います。
不旧手写 郭抜鐚様 

雰囲気的には踏潰銭。やすり目が面背に粗く走ります。これはたしか雑銭の会で入手したもの。加護山と言うタイトルでしたが、銅色が加護山とは異なり白く、踏潰銭のような雰囲気があります。
不旧手写 赤銅磨輪

七条銭を磨輪して写したもの。まあ、よくぞこんな汚いものを喜んで拾っていると我ながらあきれてしまいます。
不旧手写

黒く変色して出来は悪いものの、大ぶりの上、かなり肉厚で輪にテーパーを感じるもの。表面は泡立っている感じ。これも元は七条銭だと思う。
亀戸銭写背文白銅質

中字か細字を写したもの。やはりかなり白い銅質なのが珍しい。安南銭でこのようなものはなかったか検討が必要ですね。
これもかなり珍しいと思います。
亀戸銭写背大錯笵

薄肉で安南寛永風のつくりながら、銅質は青銅質。湯道の痕跡が残っているし背は大ずれで、かすかに文の文字の痕跡のようなものがあります。これで厚肉だったら作銭かも・・・と思ってしまいそうなんですけど、製作はあくまでも密鋳のつくり。
あるいは安南寛永なのかもしれません。
古寛永坂本跳永写

ごく薄肉だけでなく磨輪細縁の鐚銭のような作り。重さは2.6gしかありません。こんなにみすぼらしいのに古い泉家の朱の印が入っています。でなければスタリキの変造をうたがってしまうところ。
古寛永長門異永写

貧相な焼け銭の風貌です。全体が縮小していてかろうじて写しであることが判りましたが、そうでもなければこんな汚い銭拾いませんね。たしか入札で購入したと思います。少ないとは思うのですけどよくこんなもの買ったものだと思います。

※焼け銭の気がしてきました。
古寛永水戸湾柱永写

東北特有の鉛分の多い赤黒い鋳写銭。比較的良く見かけるタイプだと思いますが、このレベルの鋳写し美銭はなかなか少ない気がします。
古寛永斜寶写

斜寶は大きいものが多いのですけど23.9㎜しかなく、撰文の縮小しています。東北特有の鉛分の多い赤黒い鋳写銭で肉厚ではありませんが重量は4.8gもあります。
古寛永仙台大永写

真赤な仙台の古寛永写。見た目は悪いが数は少ないはずです。
四ツ寶銭広永写厚肉斜穿

一見して異製作の品。肉厚で細縁、郭は面側が広がりしかも郭そのものが歪んでいます。
四ツ寶銭広永写歪輪

画像ではまるで鉄銭のようですが、立派な銅銭。仕上げの平砥ぎが強すぎ、側面にバリが飛び出し、輪側面の中央部がV字状に一部凹んだようになる異製作銭。肉は画像よりかなり赤黒く、鋳肌も粗い。
古寛永坂本跳永(不跳永?)写

真っ黒で薄っぺら、重さも2.6gしかありません。周囲は極端な磨輪で虫食い状態。焼け銭、スタリキじゃないかと疑いたくなります。しかし、よく見ると朱の赤い点が打たれていてかなり古いコレクターの収集物だろうということが分かります。薄っぺらとしましたが、磨輪されている分そこそこの厚みはありますが・・・鉄母ではなく、やすり痕跡もあります。

延尾永写厚肉

製作は上の四ツ寶銭と同じ系統で同炉の可能性が高いと思います。実物の銅色は画像より赤黒い。浄法寺系か?重量は3.8gとしっかりあります。
四ツ寶銭勁永写穿ずれ

なかなか微妙なところですけど、製作の粗さから前所有者は写しと判断したようです。四寶は肉が赤いものが多く、判断に迷うものが多い。
古寛永明暦小字(称:沓谷)写し?改造母?

外輪にあきらかな加工(テーパー)がとられています。銅質も赤く、あたかも火に入れられて加工でもされたようです。
ただし、穿内の加工が見当たらないので改造母であるという確証がもてませんのでとりあえず写しとしておきます。
四ツ寶銭座寛写磨輪最小様

秋田写しの触れ込みで入手したものの堂なのかは不明。確かに真っ赤。内径も一回り小さいがあまりに小さくしかも薄い。そのわりに銭文はしっかりしています。このようなものでも流通できたのか、民間で作れたのか・・・ちょっと不思議な品です。
元禄期亀戸厚肉写

これも薄っぺらで2.4gしかないものの東北写しで間違いないと思います。
元文期小梅手仰寛写背ずれ

薄っぺらで背が大きくずれています。また湯道が食いちぎられたように欠損。重量は2.3g。加護山系だと思います。
 
 
【鋳写母銭・改造母銭】
高津銭細字写(白銅質鋳写母銭)

滑らかな白銅質から、一見本炉の母銭の出来損ないに思えてしまいます。厚肉、背錯笵の品では本炉の母銭はつとまりません。側面や郭内のやすりから通用銭を鋳写し、さらに鉄銭用の母銭に改造した物だと推定しました。背はダイナミックにずれてしまっています。かなり珍しい品だと思います。銅質は異なりますが仕上げから見る限り葛巻の雰囲気です。
白目中字写(鋳写葛巻系母銭)

元文期白目中字を写した上に加工したもの。見寛や目寛の母銭類に見られる形状であり前所有者は葛巻銭と判断しています。
白目中字そのものが珍しい方なので、その写しはとんでもなく珍品。ひょっとしたら島屋文クラスじゃないかと勝手に思っています。
藤沢・吉田島銭縮字写(葛巻風鋳写母)

藤沢・吉田島銭縮字の鋳写し母。赤銅肉厚で輪は垂直の仕上げ。面文がほとんど読めないので母銭風仕上げの通用銭なのかもしれません。銅質的には加護山風ですけど、つくりは葛巻風。重量は3.8gもあります。請負人の名前から暴々鶏師はこの類を、藤八銭と名付けているそうです。寶尓後点上、通尾付近の輪上に大きな星(鋳だまり)があります。
藤沢・吉田島銭縮字写 鋳造母銭

藤沢・吉田島銭縮字写は密鋳銭中最多クラスですけど、鋳写し母はなかなか得難い。超肉厚です。外輪が歪んでいるのが不思議。穿内仕上げが強烈です。
座寛厚肉鋳写母銭(テーパーあり)

小型にもかかわらず厚肉で重量2.9gもあり、外輪にはしっかりテーパーがあります。厚肉の通用銭を改造したのか、それとも写して作ったのかは私にはまだわからないのですけど…
常陸太田銭広穿背久 改造母銭

鉄銭から鋳写した改造母。非常に珍しい品。
寛保期高津銭小字 改造母銭

超薄肉だが外輪、郭内とも丁寧なやすりがけが見られます。鉄銭の改造母だと思われます。
元禄期猿江銭正字改造母銭

こちらはものすごく肉厚。外輪、郭内の仕上げが認められます。さらに地の部分には鋳ざらったような痕跡が残っています。したがって背内輪がどことなくいびつに見えますね。
元文期秋田銭小字降寶改造母銭?

外輪が垂直気味に磨輪されています。背は完全に摩耗されていて平滑です。重量は2.2gなので薄肉の多い秋田小字にしては普通か?鋳写母かと思いましたが、内径を画像で照合すると全くの通用銭でした。鉄銭用の母と見るべきでしょうか。
正徳期佐渡背佐改造母銭?

やはり外輪が意図的に加工されています。郭内は角仕上げはされていますがやや中途半端な感は否めません。背は鋳だまりで文字がみえあません。あるいは鋳写し母と思ったのですが、画像で検証する限りは計測値に異常は見られません。
銅質ももともと赤みの強いタイプなので矛盾はありません。
参考)正徳期佐渡通用銭との比較画像

比較のために画像を半切りにして中央でつないでみました。内径、文字位置、郭の広さまでほぼ合致します。鋳写しかどうか確認するのに私は良くこの手法をとります。
内径が同じでも穿が広がっているケースもありますので、この手法はかなり正確なのです。
ただし、鋳写しによる縮小は0.3~0.5㎜程度なので、検証にははかなり拡大してみないと分からないと思います。(画像は1.5倍。実際には3倍以上での比較が望ましいと思います。)
貼り合せ母銭 → 延展加工

薄く加工した面側の背に、さらに極めて薄く加工した背面側を接着してあるようです。
側面にははっきりと境界線が確認できるだけでなく、背の左部が破損していて接着面の様子もわかります。肉厚はおおよそ1.3㎜で背面側の厚さは紙のような厚みの0.3~4㎜しかありません。
ひょっとしたら背輪の凸部分だけを貼りつけたのかもしれません。面背とも表面は砥石で砥いだような指ざわり。密鋳母銭として使用したものだとは思うのですが、なぜこれほどまで手の込んだものをつくったのか・・・謎です。

※今の見解としてこれは貼り合わせではなく、延展加工によるものだと思われます。側面の境界線のような溝は上に掲示四ツ寶銭広永写歪輪と同じ。このメカニズムについては2016年1月24日の制作日記に類似記事がありますので・・・
繊字無背改造母銭

火で加工されたのかかなり銅質が赤いもの。とりあえず改造母としたが、はたしてどうか?加護山の繊字狭文様と関連があるかもしれません。